
こんにちは。
今日は坊っちゃんの第5章を読みます。
前回第4章ではどんなことが起こりましたか?
坊っちゃんが当直、宿直の当番で寄宿舎に一晩泊まりましたね。
で、その時にバッタ事件が起こりました。
寄宿舎に住んでいる生徒たちが坊っちゃんのことをからかって、色々なんか嫌がらせをする騒動が起きましたね。
はい。
今日はその続きです。
第5章。
君、釣りに行きませんか?と赤シャツが俺に聞いた。
赤シャツは誰でしたか?
赤シャツは教頭先生です。
学校で2番目に偉い先生ですね。
赤シャツが俺に聞いた。
赤シャツは気味の悪いように優しい声を出す男である。
まるで男だか女だか分かりゃしない。
男なら男らしい声を出すもんだ。
ことに大学卒業生じゃないか。
物理学校でさえ俺くらいの声が出るのに、文学士がこれじゃみっともない。
あんまりね、こう男らしい声と学歴がどう関係するのか、私はちょっとよく分かりませんけど。
坊っちゃんは、大学を出てるのに、そんな声しか出せないのか。
物理学校での俺でさえこれくらいの声が出せるのに、と言っています。
俺は、「そうですな」と少し進まない、気が進まないような返事をしたら、「君、釣りをしたことがありますか?」と失敬なことを聞く。
失礼なことを聞く。
あんまりないが、子供の時、小梅の釣堀で鮒を3匹釣ったことがある。
小梅というのは地名でしょうね。
はい。
釣堀というのは釣りをするための場所です。
それから神楽坂の毘沙門の縁日で、八寸ばかりの鯉を針で引っ掛けて「しめた!」「捕まえたぞ!」と思ったら
ぽちゃりと落としてしまったが、これは今考えても惜しい。
と言ったら。
神楽坂の毘沙門の縁日っていうのはお祭りのことを指しています。お祭りで今でも金魚すくいとかがありますけど、鯉を釣るお店があったんでしょうね。
出店があったんでしょうね。
はい。
で、今考えても惜しい。
取り逃してしまって惜しい、と言ったら、赤シャツは顎を前の方へ突き出して「ほほほほ」と笑った。
何もそう気取って笑わなくても良さそうなものだ。
顎、この字、今使われている字と違います。
で、今回も結構今使われている漢字と違う漢字を使っている部分が出てくるので、
後で字幕を付けるんですけど、字幕では現代、今普通に使われている漢字を使って書きますので、
はい、漢字が「あれ、これなんだろう?」と思った時は、字幕をご確認ください。
それじゃあ、まだ釣りの味はわからんですな。
釣りの味。
味って釣りを食べるわけじゃないんですね。
釣りの良さは分からないですね。
はい。
お望みならちと伝授しましょう。
もしよかったら教えてあげますよ、とすこぶる得意である。
得意げに言いました。
誰がご伝授を受けるものか。
一体釣りや猟をする連中は、みんな不人情な人間ばかりだ。
釣りとかね、猟っていうのは狩りですね。
動物を捕まえる。
はい。
そんなことをする人たちっていうのは、情のない、不人情な人間ばかりだ。
不人情でなくって殺生、ま、殺すってことですね。
殺生をして喜ぶわけがない。
ま、この不人情っていう言葉もあんまり使わないですね。ま、よく普通に使われる言葉で言ったら、思いやりがない人間。
思いやりがない人間だ。
はい。
魚だって鳥だって殺されるより生きてる方が楽に決まってる。
釣りや猟をしなくっちゃ活計が立たないなら格別だが、何不足なく暮らしている上に生き物を殺さなくっちゃ寝られないなんて贅沢な話だ。
活計が立たないとありますが、これは生計が立たない、暮らしていけない。
お金がなくて暮らしていけないってことですね。
釣りとか狩りをしてね、それを売ってお金を稼がないと生計が立たない、生計が立てられないんなら別だけど、
普通に何不足なく暮らしてるのに生き物を殺さなくっちゃいけないなんて贅沢だ。
この格別っていうのは、普通よく使われる意味はなんか特別にすごい、別格みたいな意味で、
この料理は格別に美味しいとか、そんな風に使うんですけど、ここではまあ単に「別」という意味で使われてますね。
こう思ったが、向こうは文学士だけに口が達者だから議論じゃ敵わないと思って、黙ってた。
敵わない。
ちなみにこれ漢字、通常はこうは書きませんね。
はい、敵という字を書きます。
すると先生この俺を降参させたと勘違いして、早速伝授しましょう、お暇なら今日どうです?一緒に行っちゃ。
一緒に行きましょう。
吉川君と2人ぎりじゃ、2人きりじゃ寂しい。
さむしいとなっていますが、さみしいですね。寂しいから来たまえ。
来なさいと、しきりに進める。
吉川君。
はい、これも同僚の教師です。
吉川君というのは画学の教師で、美術の教師で、例の野だいこのことだ。
坊っちゃんが野だいこというあだ名をつけた美術の先生です。
この野だは、どういう了見だか、どういうつもりだか、どういう考えだか、赤シャツの家へ朝夕出入りしてどこへでも随行していく。
いっつもどこにでも赤シャツについていくんだそうです。
まるで同輩じゃない。
主従みたようだ。
うん、同輩、これは立場が同じってことですね。
先輩、後輩、同輩。
あんまり使いませんけどね。
主従みたいだ。
主従関係のようだ。
主従関係、立場が上と下。主従関係みたいだ。
赤シャツの行くところなら野だは必ず行くに決まっているんだから、今更驚きもしないが、2人で行けば済むところをなんで無愛想の俺へ口をかけたんだろう。
声をかけたんだろう。
大方高慢ちきな釣り道楽で、自分の釣るところを俺に見せびらかすつもりかなんかで誘ったに違いない。
高慢ちきっていうのは、ま、偉そうにすることですね。
はい。
そんなことで見せびらかされる俺じゃない。
マグロの2匹や3匹釣ったって、びくともするもんか。
俺だって人間だ。
いくら下手だって、糸さえ下ろしゃ、ね、釣り糸さえ下ろせば、何か魚がかかるだろう。
ここで俺が行かないと、赤シャツのことだから「下手だから行かないんだ」「嫌いだから行かないんじゃない」と邪推するに相違ない。
邪推というのは、間違った推測をする。
もし誘われたのに行かなかったら「あ、坊っちゃんは嫌いだからじゃなくて、下手だから恥ずかしいから、
下手なところを見られるのが恥ずかしいから行かないんじゃないか」って、
間違った、誤った推測をされるに違いない。
俺はこう考えたから「行きましょう」と答えた。
それから学校をしまって、学校を終えて、一応、家へ帰って支度を整えて停車場、駅ですね、
で、赤シャツと野だを待ち合わせて、浜へ行った。
船頭は1人で、これは船を漕ぐ人です。
1人で、船は細長い、
東京あたりでは見たこともない格好である。
さっきから船中見渡すが、釣り竿が1本も見えない。
釣り竿なしで釣りができるものか。
どうする了見だろう。
どうするつもりだろうと野だに聞くと、沖釣りには竿は用いません。
糸だけでげす。
と、顎を撫でて玄人じみたことを言った。
沖釣りっていうのは、海岸で釣るんじゃなくて、船で沖に出て船から釣りをすること。
沖釣りと言います。
はい。沖釣りの場合は竿は使いませんと、玄人じみたこと。
玄人、これもちょっと漢字がね、違いますけど、素人と玄人いうのがあって。
素人というのはアマチュアですね。何にもそれに関する知識とか、経験がない人のことで、玄人はそれに関する専門的なことを知ってる、詳しい人のことですね。
はい。
野だいこが玄人じみたこと、プロっぽいことを言った。
こうやり込められるくらいなら、黙っていればよかった。
船頭はゆっくりゆっくり漕いでいるが、熟練は恐ろしいもので、見返ると、振り返ると浜が小さく見えるくらいもう出ている。
高柏寺、お寺の名前ですね。
高柏寺の五重の塔が森の上へ抜け出して、針のようにとんがっている。
向こう側を見ると、青島が浮いている島の名前です。
これは人の住まない島だそうだ。
無人島ですね。
よく見ると石と松ばかりだ。
なるほど、石と松ばかりじゃ住めっこない。
赤シャツはしきりに眺望して、景色を眺めて、「いい景色だ」と言っている。
野だは、絶景でげす、と言っている。
絶景だか何だか知らないが、いい心持ちには相違ない。
いい気持ちには違いない。
広々とした海の上で塩風に吹かれるのは薬だと思った。
これは薬、ね、実際に薬を飲むわけじゃなくて、薬のように体にいいという比喩で、例えで使ってますね。
いやに腹が減る。
あの松を見たまえ。
幹がまっすぐで、上が傘のように開いて、ターナーの絵にありそうだね。
ターナーというのは、調べたら、イギリスの画家の名前だそうですね。
と、赤シャツが野だに言うと、野だは、全くターナーですね。
どうもあの曲がり具合たらありませんね。
ターナーそっくりですよ、と心得顔である。
心得顔、得意げ、得意げな顔をしている。
ターナーとは何のことだか知らないが、聞かないでも困らないことだから黙っていた。
船は島を右に見てぐるりと回った。
波は全くない。
これで海だとは受け取りにくいほど平らだ。
海だとは思えないぐらい波がなくて平らだ。
赤シャツのおかげで甚だ愉快だ。
この愉快だという言葉は坊っちゃんよく使うんですが、あんまり今言いませんね「ああ愉快だ」って。
言ったらちょっとおかしいですね。
楽しいという意味で使っているんだと思います。
すごく楽しい。
坊っちゃん、なんか色々不満を言ってましたけど、綺麗な景色が見られて楽しんでますね、坊っちゃんも。
できることならあの島の上へ上がってみたいと思ったから、「あの岩のあるところへは船はつけられないんですか?」と聞いてみた。
つけられんこともないですが、釣りをするにはあまり岸じゃいけないです、と赤シャツが意義を申し立てた。
島に行けないこともないけど、あんまり釣りするには良くない場所ですよと。
はい、反対したんですね、赤シャツが。
俺は黙ってた。
すると野だが、「どうです?教頭。これからあの島をターナー島と名付けようじゃありませんか」と余計な発議をした。
発議ですね。
ま、余計な意見を言った。
余計な提案をした。
赤シャツは「そいつは面白い。我々はこれからそう言おう。」と賛成した。
この我々のうちに俺も入っているなら迷惑だ。
俺には青島でたくさんだ。
2人はターナー島って呼ぼうって言ってるけど、俺は青島で十分だ。
青島という名前で十分だ。
あの岩の上にどうです?
ラフハエルのマドンナを置いちゃ。
えっと、ラフハエルって書いてますけど、ま、今の言葉だと、今のカタカナだと、ラファエロって言われてるみたいです。
これも画家の名前ですね。
マドンナというのはその人が描いた作品の名前です。
「いい画ができますぜ」と野だが言うと「マドンナの話はそうじゃないか。ほほほほ」と赤シャツが気味の悪い笑い方をした。
「何、誰もいないから大丈夫です。」と、「大丈夫ですよ」とちょっと俺の方を見たが、わざと顔を背けてニヤニヤと笑った。
俺はなんだか嫌な心持ちがした。
嫌な気持ちがした。
マドンナだろうが小旦那だろうが、俺の関係したことではないから、俺には関係ないから勝手に立たせるが良かろうが、
人に分からないことを言ってわからないから聞いたって構やしませんってような風をする。下品な仕草だ。
ま、マドンナっていう人がいるんでしょうね。
で、坊っちゃんの知らない人です。坊っちゃんには分からない話をこそこそと、わざとらしくちょっと聞こえるように言って、
「どうせ聞こえてもあの人には分かりませんから大丈夫ですよ」って言っているわけですね、2人は。
はい、ちょっとこう、下品な仕草だ。
品のいい仕草ではないと坊っちゃんは批判しています。
これで当人は、本人は、私も江戸っ子でですなどと言ってる。
江戸っ子っていうのは東京の生まれです、ってことですね。
はい。都会の人ですと言ってるんですね。
野だいこが言ってることですね。
その美術の先生が、自分は江戸っ子ですって言ってましたね。
マドンナというのは何でも赤シャツの馴染みの芸者のあだ名か何かに違いないと思った。
芸者さんは、歌とか踊りをする女性、舞妓さんみたいな人のことです。
ま、赤シャツが通ってるお店の芸者さんのあだ名か何かだろう。
その人のことをマドンナってきっと言ってるんだろうと坊っちゃんは予想しています。
馴染みの芸者を無人島の松の木の下に立たして眺めていれば世話はない。
それを野だが油絵にでも描いて展覧会へ出したらよかろう。
ここいらがいいだろう。
この辺がいいだろうと、船頭は船を止めて碇を下ろした。
幾尋あるかね?
幾尋、これはどれくらいの長さですか?と、長さを聞いているんだそうです。
赤シャツが聞くと六尋ぐらいだという。
六尋ぐらいじゃ鯛は難しいな、と赤シャツは糸を海へ投げ込んだ。
鯛は立派な美味しいお魚ですから、鯛を釣りたいですけど、鯛は難しいだろうなと言ってます。
大将、鯛を釣る気と見える。
鯛を釣る気だな。
豪胆なものだ。
豪胆。
豪胆というのはあまり聞かない言葉ですが、思い切ったことをする、豪快みたいな感じです。
でも多分坊っちゃんはここではちょっと批判的に、偉そうだ、鯛を釣ろうだなんて偉そうだ。
そんな感じで言っているんだと思います。
野だは「なに、教頭のお手際じゃかかりますよ」教頭の、赤シャツのことですね、教頭の技術があれば、腕があれば、釣りの腕があれば鯛だって釣れますよ。
それに凪ですから、とお世辞を言いながら、これも糸を繰り出して投げ入れる。
凪。
凪というのは、風がなくて、海に波がない静かな状態のことを凪と言います。
野だいこも糸を投げました。
なんだか先に錘のような鉛がぶら下がってるだけだ。
こういうね、釣り竿に、普通は、釣り竿にこう浮を付けて釣りをしますけど、そういうのはなくって、糸に重りのような鉛がぶら下がってるだけ。
浮がない。
浮がなくって釣りをするのは、寒暖計なしで温度を測るようなものだ。
温度じゃなくて熱度になってますね。寒暖計、ま、今使われる言葉で言うと温度計ですね。
温度計なしで温度を測るようなものだ。
俺には到底できない、絶対できないと思って見ていると、「さあ、君もやりたまえ。糸はありますか?」と聞く。
糸は余るほどあるが、浮がありませんと言ったら、浮がなくっちゃ釣りができないのは素人ですよ。
素人。
さっき玄人が出てきましたね。
素人はアマチュア。
経験や知識がない人のことです。
こうしてね、糸が水底へついた時に、ついた時分に、船べりのところで、船の縁のところでね、人差し指で呼吸を図るんです。
食うとすぐ手に応える。
うん、魚が食いついたらすぐに分かると。
「そら来た!」と先生、急に糸をたぐり始めるから何かかかったと思ったら、何にもかからない。
餌、えさがなくなってたばかりだ。
餌がなくなってただけだった。
いいきびだ。
いい気味ですね。
はい、いい気味だ、ざまあ見ろ。
教頭、残念なことをしましたね。
今のは確かに大物に違いなかったんですが、どうも教頭のお手際でさえ逃げられちゃ、今日は油断ができませんよ。
しかし、逃げられてもなんですね。
浮とにらめっくらをしている連中よりはましですね。
ちょうど歯止めがなくっちゃ自転車へ乗れないのと同程度ですからね、と野だは妙なことばかり喋る。
野だいこは、さっきからずっと教頭のことをよいしょして、こういう人、太鼓持ちって言ったりしますけど。
偉い人にゴマをすってね、お世辞を言っておだてて、何て言うんでしょう...気に入られようとする。
いい気持ちにさせてね。
はい。
えっと、はい、教頭がなんかかかったかなと思ったら、何もかかってませんでした。
教頭の腕があっても、教頭の技術があっても逃げられるくらいですから、今日は油断ができませんよ。
でも、浮とにらめっこしてる、これは坊っちゃんのことを指してますね、
よりはましですね。
浮とにらめっこしているなんて、歯止め、これはブレーキのことです。ブレーキ。
ブレーキがないと、自転車に乗れない人と同じようなものですからねと、ちょっと坊っちゃんをね、見下して嫌味を言ってます。
坊っちゃんもそれを聞いて、よっぽど殴りつけてやろうかと思った。
俺だって人間だ。
教頭1人で借り切った海じゃないし、海じゃあるまいし。
教頭1人で貸し切りにした海じゃないんだし、広いところだ。
鰹の1匹ぐらい義理にだってかかってくれるだろうと、ドボンと、これ何でしたっけ?なまり?
おもり?
錘ね、錘。
錘と糸を放り込んで、いい加減に指の先で、指の先で操っていた。
鰹も、さっき教頭は鯛を狙ってましたけど、鰹もね、立派な美味しいお魚です。
こんな広いところなんだから、鰹の1匹ぐらい義理にだってかかってくれるだろう。
しばらくすると、なんだかピクピクと糸に当たるものがある。
俺は考えた。
こいつは魚に相違ない。違いない。
生きてるものでなくちゃ、こうぴくつくわけがない。
しめた!
よし、釣れた!とぐいぐいたぐり寄せた。
おや、釣れましたかね?
後世恐るべしだ、と野だが冷やかすうち、糸はもう大概たぐりこんで、ただ五尺ばかりほどしか水についておらん。
後世恐るべしって、野だが冷やかしてます。
素人だと思ったら恐るべし、意外とやりますねっていう感じで、ちょっとこうバカにして冷やかしてますね。
船べりから覗いてみたら、金魚のような縞のある魚が糸にくっついて、右左へ漂いながら、手に応じて浮き上がってくる。
手に応じて、坊ちゃんのこの手の動きに合わせて浮き上がってくる。
面白い。
水際からあげる時、ぽちゃりと跳ねたから、俺の顔は塩水だらけになった。
ようやくつらまえて、捕まえて針を取ろうとするが、なかなか取れない。
つらまえた手はぬるぬるする。
大いに気味が悪い。
気持ち悪い。
面倒だから、糸を振って胴の間へ叩きつけたら、すぐ死んでしまった。
胴の間。
胴というのは、体のこう胴体の部分ですね。
顔と手足以外のところを胴といいます。
なので、体の真ん中。人間の体の胴と言ったら真ん中ですね。
なので、船の胴の間と言ったら、船の真ん中のことです。
船の真ん中にバーンと叩きつけたら、その釣れた魚が死んでしまった。
赤シャツと野だは驚いて見ている。
俺は海の中で手をザブザブと洗って鼻の先へあてがってみた。
まだ生臭い。魚のね、生臭い匂いがしました。
もう懲り懲りだ。もう嫌だ。
何が釣れたって魚は握りたくない。魚も握られたくなかろう。魚だって握られたくはないだろう。
早々糸を巻いてしまった。
もう坊っちゃんは釣りしたくないという気持ちですね。
もう懲り懲りだ。
一番槍はお手柄だが、ゴルキじゃ、と野だがまた生意気を言うと、ゴルキというとロシアの文学者みたような名だねと赤シャツが洒落た。
うん、一番槍、これも私、ちょっと分からなくて調べたんですが、一番に釣った、一番乗りみたいな感じですね。
一番手はすごいけど、お手柄だけど、ゴルキじゃ。
これはゴルキというのは坊っちゃんが釣った魚の名前だそうです。
鯛とかね、鰹とかを狙ってたけど、ゴルキというのはあんまり釣りたいと思うようなこう立派な魚ではないみたいですね。
ま、一番に釣ったっていうのは認めるけど、ゴルキじゃねぇ...と野だが生意気を言ってます。
ゴルキと言うと、ロシアの文学者にゴルキという名前に似た人がいるんだと思います。
ロシアの文学者みたいだねと赤シャツが洒落た。
これはオシャレをしたという意味ではなくて、シャレを言う、冗談を言うということですね。
そうですね、まるでロシアの文学者ですね、と野だはすぐ賛成しやがる。
ゴルキがロシアの文学者で、丸木が芝の写真誌で、米のなる木が命の親だろう。
ここはちょっと意味が分からなかったので調べたんですが、丸木というのは人の名前で、芝という場所で写真スタジオを開いた写真家の名前だそうです。
丸木。
で、ゴルキ、丸木、米のなる木、全部何々「るき」で韻を踏んでますね。
韻を踏んでます。ゴルキ、丸木、米のなる木っていう風にね。
坊っちゃんはちょっとね、韻を踏んで言いたかっただけで、韻を踏んでこの2人のことをちょっと小馬鹿にしたかっただけで、あまりここは意味はありません。
はい。
一体この赤シャツは悪い癖だ。
誰をつらまえてもカタカナの唐人の名を並べたがる。
唐人、これ、えっとですね、この同じ漢字で「からびと」と読むと中国の人のことを指します。
唐というのが中国、昔の中国のことですからね。
でも「とうじん」って読んだら外国人のことなんだそうです。
ま、多分、西洋、外国人といっても、西洋のヨーロッパの人のことですね。
当時、この坊っちゃんの時代というのは明治時代ですから、江戸時代でね、日本が鎖国をしていて、
あまり西洋の文化を受け入れていなかったところから、明治維新が起きて、開国して西洋の文化が入ってきました。
そんな時代なので、ちょっとこうカタカナの名前を並べると、西洋人の名前を並べると、ちょっとインテリっぽいというか、賢く見える。
そしてちょっと上流な、何て言うんでしょう?ちょっとこう...頭が良くて、最先端の知識があるようなね、人に見えるわけですよね。
うん。で、
この2人がね、赤シャツがそうやってこうカタカナの外国人の名前を言ってインテリぶるもんだから、
それをさっきのここのね、ゴルキ、丸木、米のなる木みたいなことを言って坊っちゃんはちょっと皮肉ってますね。
人にはそれぞれ専門があったものだ。
俺のような数学の教師に、ゴルキだか車力だか、見当がつくものか。
少しは遠慮するがいい。
うん。
俺は数学専門なんだから、そんなゴルキとか知らないよと。
そんな話はよししてくれと。
言うなら、フランクリンの自伝だとかプッシングツーゼフロントだとか、俺でも知ってる名を使うがいい。
フランクリンはベンジャミン・フランクリンのことで、プッシングツーゼフロント、これはPushing to the Frontという
フランクリンの書いた本のタイトルを、ま、ちょっと日本語風に無理やりカタカナにして言ってるんですね。
このフランクリンのプッシングツーゼフロントだったら俺でも知ってる。
俺だって知ってる。
それぐらい有名なやつを言ってくれと言っています。
赤シャツは、時々「帝国文学」とかいう真っ赤な雑誌を学校へ持ってきて、ありがたそうに読んでいる。
山嵐に聞いてみたら、赤シャツのカタカナはみんなあの雑誌から出るんだそうだ。
帝国文学も罪の雑誌だ。
赤シャツはね、かっこつけてカタカナの言葉ばっかり使ってるけど、全部その雑誌から知識を得て使ってると言っています。
それから赤シャツと野だは一生懸命に釣っていたが、約1時間ばかりのうちに2人で15、6あげた。
おかしいことに、釣れるのも釣れるのもみんなゴルキばかりだ。
鯛なんて薬にしたくてもありゃしない。
今日はロシア文学の大当たりだと、赤シャツが野だに話している。
あなたの手腕でゴルキなんですから、私なんぞがゴルキなのは仕方がありません。
当たり前ですなと野だが答えている。
また、野だいこが赤シャツを持ち上げて、「いやあ、教頭先生の腕を持ってしてもゴルキしか釣れないんですから、しょうがないですね」と言ってるわけですね。
船頭に聞くと、この小魚、ゴルキのことですね、この小魚は骨が多くてまずくて、とても食えないんだそうだ。
ただ、肥やしにはできるそうだ。
肥やし。
えっと野菜とかを作る時に土に混ぜる肥料ですね。
肥料になるんだそうです。
赤シャツと野だは、一生懸命に肥料を釣っているんだ。
気の毒の至りだ。
俺は1匹で懲りたから、胴の間へ仰向けになって、さっきから大空を眺めていた。
釣りをするより、この方がよっぽどしゃれている。
よっぽどいい。
釣りなんかより、船にこう仰向けになって空を眺めてた方がよっぽどいい。
すると2人は小声で何か話し始めた。
俺にはよく聞こえない。
また聞きたくもない。
俺は空を見ながら清のことを考えている。
また清が出てきました。
金があって清を連れてこんな綺麗なところへ遊びに来たら、さぞ愉快だろう。
さぞ楽しいだろう。
いくら景色が良くても、野だなどと一緒じゃつまらない。
清はしわくちゃだらけの、しわだらけの婆さんだが、どんな所へ連れて出たって恥ずかしい心持ちはしない。
野だのようなのは、馬車に乗ろうが船に乗ろうが凌雲閣へ乗ろうが、これは建物の名前だそうです。
到底寄りつけたものじゃない。
俺が教頭で赤シャツが俺だったら、やっぱり俺にへけつけ、へけつけ、うーん...へこへこかな。へこへこお世辞を使って赤シャツを冷やかすに違いない。
江戸っ子は軽薄だというが、なるほどこんなものが田舎周りをして、私は江戸っ子でげすと繰り返していたら、
軽薄は江戸っ子で、江戸っ子は軽薄のことだと田舎者が思うに決まってる。
軽薄っていうのは、軽々しい人ってことですね。
こんなことを考えていると、なんだか2人がクスクス笑い出した。
笑い声の間に何か言うが、途切れ途切れでとんと要領を得ない。
全然分からない。
え?
どうだか。
全くです。
知らないんですから。
罪ですね。
まさか。
バッタを。
本当ですよ。
俺は他の言葉には耳を傾けなかったが、バッタという野だの言葉を聞いた時は、思わずきっとなった。
野だは何のためか、バッタという言葉だけ、ことさら力を入れて明瞭にはっきりと俺の耳に入るようにして、その後をわざとぼかしてしまった。
バッタ...ごにょごにょごにょ...ね、「バッタ」だけはっきり言ってあとをぼかしてしまった。
俺は動かないでやはり聞いていた。
また例の堀田が...そうかもしれない。
天ぷら...ははははは...先導して...団子も?
堀田っていうのは同僚の山嵐の名前です。
天ぷら事件とかお団子事件もありましたね。
覚えてますか?
言葉はかように、このように、途切れ途切れであるけれども、バッタだの天ぷらだの団子だのというところをもって推し測ってみると、
なんでも俺のことについて内緒話をしているに相違ない。
キーワードだけを聞いて話をつなげて推測してみると、どうやら俺の陰口を言ってるな。
悪口を言ってるな。
はい。
話すならもっと大きな声で話すがいい。
また、内緒話をするくらいなら俺なんか誘わなければいい。
いけ好かない連中だ。
嫌な奴らだ。
バッタだろうが雪駄だろうが。
また韻を踏んでますね。
雪駄っていうのは、雪の時に履く下駄みたいな履き物のことです。
バッタだろうが雪駄だろうが、非は俺にあることじゃない。俺が悪いんじゃない。
校長がひとまず預けろと言ったから、狸の顔に免じてただ今のところは控えているんだ。
校長がひとまず預けろと言った。
ま、俺に預けろ。
俺に任せとけと校長が言ったから、余計なことはしなくていい、任せとけって言ったから、今は何もせず、何も言わず黙ってるだけだ。
野だのくせに、いらぬ批評をしやがる。
毛筆でもしゃぶって引っ込んでるがいい。
しゃぶるっていうのは口でね、しゃぶる。ちゅっちゅっとしゃぶるってことです。
俺のことは遅かれ早かれ俺1人で片付けて見せるから、差し支えはないが。
自分のことは自分でどうにかするから別にいいんだけど、また例の堀田がとか、先導して、
先導してっていうのは、みんなの先頭に立って、みんなを引き連れて何かするっていうことですね。
また例の堀田がとか、先導してとかいう文句が気にかかる。その言葉が気になる。
堀田が俺を先導して騒動を大きくしたという意味なのか。
あるいは堀田が生徒を先導して俺をいじめたというのか。
方角が分からない。
方角が分からない。
見当がつかない。
堀田は山嵐のことなので、山嵐のことは坊っちゃん、結構仲良くなれそうだみたいな感じでしたよね。
先生たちの中では結構心を許せるというか、坊っちゃんは気に入ってた人ですね。
堀田がまさか生徒を先導して、俺をいじめたっていうことなのか?
と、ちょっと坊っちゃんは困惑しています。
はい。
青空を見ていると、日の光がだんだん弱ってきて、日の光がだんだん弱くなってきて、少しはひやりとする風が吹き出した。
線香の煙のような雲が透き通る底の上を静かに乗せていったと思ったら、いつしか底の奥に流れ込んで薄くもやをかけたようになった。
ちょっとね、ここの表現が文学的で難しいんですが、まあここ全体、だんだん日が落ちてきて夕方になった、この移り変わり。時間が経ったことを表現しています。
もう帰ろうか、と赤シャツが思い出したように言うと、えぇ、ちょうど時分ですね。
今夜はマドンナの君にお会いですか?
と野だが言う。
マドンナさんに会いに行くんですか?
赤シャツは、馬鹿言っちゃいけない。
何言ってんだ。
間違いになる、と船べりに身を持たしたやつを少し起き直る。
間違いになるは、間違った噂を立てられちゃ困るっていうことですね。
はい。坊っちゃんが聞いてますからね。
船べりに身を持たしたやつ。
船べりにこうね、寄りかかってたのを、こう起き直りました。
えへへへへ。
大丈夫ですよ、聞いたって。
と、野だが振り返った時、俺は皿のような眼を、まん丸見開いた目ってことでしょうか。
目を野だの頭の上へまともに浴びせかけてやった。
睨みつけたってことでしょうね。
はい。
野だは、まぼしそうに、眩しそうにひっくり返って、いや、こいつは降参だ。
負けました、参りました、と首を縮めて頭を掻いた。
なんという猪口才だろう。
猪口才。
なんでしょう?
生意気という意味だそうです。
船は静かな海を岸へ漕ぎ戻る。
君、釣りはあまり好きでないと見えますね、と赤シャツが聞くから、ええ、寝ていて空を見る方がいいです、
と答えて吸いかけた巻きタバコを海の中へ叩き込んだら、じゅっと音がして、艪の足でかき分けられた波の上を揺られながら漂っていった。
艪、これは船を漕ぐオールのことだそうです。
君が来たんで、生徒も大いに喜んでいるから、奮発してやってくれたまえ、と今度は釣りにまるで縁故もないことを言い出した。
坊っちゃんが学校に来て、生徒たちもすごく喜んでるから、奮発する。
奮発するというのは、よく使われる意味としては、何かこう...奮発して大きな買い物をする。
高い買い物をするとか、奮発して、今日は焼き肉奢るよとか、奮発してお寿司を食べるみたいな、
ちょっと、いつもだったら使わないぐらいのお金を思い切って使うみたいな意味で使われることが多いですけど、ここではお金を出すというのは全く関係なく、
気持ちを奮い立たせる、ね、頑張ってくれっていう感じですね。
みたいな、全然釣りに関係ない話をし出した。
あんまり喜んでもいないでしょう。
これ、坊っちゃんが言ったんですね。
喜んでるようには見えませんけど、と。
いえ、お世辞じゃない。
全く喜んでいるんです。
ねえ、吉川君。
吉川君は野だいこのことです。
喜んでるどころじゃない。
大騒ぎですと、野だはニヤニヤと笑った。
こいつの言うことはいちいち癪に障るから妙だ。
しかし君、注意しないと険呑ですよ。
これも聞き慣れない言葉です。
意味を調べたら、危険という意味でした。
これ危険の険ですもんね。
はい。
と、赤シャツが言うから、どうせ険呑です。
こうなりゃ険呑は覚悟です。
危険なのは覚悟してます。
と言ってやった。
実際、俺は免職になるか寄宿生をことごとく謝らせるかどっちか1つにする了見でいた。
仕事をね、首になる、免職になる、首になる、辞めさせられるか、その生徒たちに自分に謝らせるか。
どちらかにするつもりでいた。
そう言っちゃ取りつきどころもないが、実は僕も教頭として君のためを思うから言うんだが、悪くとっちゃ困る。
教頭は全く君に好意を持ってるんですよ。
僕も及ばずながら同じ江戸っ子だから、なるべく長くご在校を願ってお互いに力になろうと思って、これでも陰ながら尽力してるんですよ。
と、野だが人間並みのことを言った。
野だのお世話になるくらいなら、首をくくって死んじまあ。
ま、2人ともね、坊っちゃんに対して、応援しているよというようなことを言いました。
坊っちゃんは野だのことをすごく嫌ってますね。野だのお世話になるくらいなら、首をくくって死んだほうがマシだと。
はい。
それでね、生徒は君の来たのを大変歓迎しているんだが、そこには色々な事情があってね。
君も腹の立つこともあるだろうが、ここが我慢だと思って辛抱してくれたまえ。
決して君のためにならないようなことはしないから。
色々の事情ってどんな事情です?
と坊っちゃんが聞きました。
それが少し込み入ってるんだが、ま、だんだん分かりますよ。
込み入ってるっていうのは、ちょっと事情が複雑ということです。
僕が話さないでも自然と分かってくるです。
ね、吉川君。
分かってくるです。
分かってきます。
ええ、なかなか込み入ってますからね。
一朝一夕には到底分かりません。
うん、すぐには分かりませんよ、と。
しかし、だんだん分かります。
僕が話さないでも自然と分かってくるです、と、野だは赤シャツと同じようなことを言う。
そんな面倒な事情なら聞かなくてもいいんですが、あなたの方から話し出したから伺うんです。
そりゃあごもっともだ。
確かにこっちで口を切って、こっちから言い出して、後をつけないのは無責任ですね。
それじゃあ、これだけのことを言っておきましょう。
あなたは失礼ながらまだ学校を卒業したてで、教師は初めての経験である。
ところが、学校というものはなかなか情実のあるもので、そう、書生流に淡白には行かないですからね。
うん。
坊っちゃんはまだ学校を卒業したばかり、したてですね。
経験が浅いです。
でも学校っていうのはいろんな事情があるので、学生のように簡単には行きませんよと忠告をしています。
淡白に行かなければ、簡単に行かなければどんな風に行くんです?
坊っちゃんが質問してます。
さあ...君はそう率直だから、まっすぐだから、まだ経験に乏しいと言うんですがね。
どうせ経験には乏しいはずです。
履歴書にも書いておきましたが23年4ヶ月ですから。
23歳4ヶ月ってことでしょうか。
そりゃあまだまだ経験乏しいですよ。まだ若いですから。
さ、そこで思わぬあたりから乗ぜられることがあるんです。
乗ぜられる。
乗ぜられるっていうのは、付け込まれる、うまく利用されるってことですね。
正直にしていれば誰が乗じたって怖くはないです。
坊っちゃんは本当に真っすぐな性格ですね。
無論怖くはない。
怖くはないが乗ぜられる。
現に君の前任者がやられたんだから、気をつけないといけないと言うんです。
野だがおとなしくなったなと気が付いて振り向いてみると、いつしか艫の方で船頭と釣りの話をしている。
野だがいないんで、よっぽど話良くなった。
話しやすくなった。
艫、これもね、えっと、へんが、左側が船という字ですから、ま、船に関係する言葉だなという想像はつくんですが。
私も聞き慣れない言葉なので、一応調べてみたら、船の後ろの方という意味だそうです。
はい。
僕の前任者が誰に乗ぜられたんです?
誰と指すと、その人の名誉に関係するから言えない。
また判然と証拠のないことだから、言うとこっちの落ち度になる。
坊っちゃんの前任者の弱みにつけ込んで、利用した悪者ですね。
乗じた人。
それを、それは誰なんですか?って坊っちゃんが聞くんですけど、それをね、名前を言っちゃうと、その人の名誉に関係するから言えない。
で、乗じたって言ってもはっきり証拠のないことなので、それを言いふらしちゃうと、こっちの落ち度になる。
誰ですかね...この人、赤シャツ。
赤シャツが、自分が悪いってことになるから言えないと。
とにかくせっかく君が来たもんだから、ここで失敗しちゃ僕らも君を呼んだ甲斐がない。
どうか気を付けてくれたまえ。
うん。
ま、はっきりとは言いませんけど、赤シャツは。
坊っちゃんが来る前にこの学校では何か問題があったみたいですね。
気をつけろったってこれより気を付けようはありません。
悪いことをしなけれりゃいいんでしょ?
赤シャツは、ほほほほと笑った。
別段俺は笑われるようなことを言った覚えはない。
今日、ただ今に至るまで、これでいいと固く信じている。
悪いことをしなければいいんだと。
考えてみると、世間の大部分の人は悪くなることを奨励しているように思う。
悪くなることをいいことだと言っているように思う。
悪くならなければ、社会に成功はしないものと信じているらしい。
たまに正直な純粋な人を見ると、坊っちゃんだの小僧だのと難癖をつけて軽蔑する。
うん。
そうですね。
社会に出たらちょっとぐらい悪いこともして、うまく世渡りをしないと、うまくやっていかないと成功できないとみんな思っているらしいと。
正直で純粋なままの大人を見ると、馬鹿にすると。
それじゃあ、世間では通用しないよとか、それじゃあ、社会で成功できないよ。
うまくやっていけないよっていう風に馬鹿にする。
うん。
確かにそういう面はあるかもしれないですね、世の中。
それじゃあ、小学校や中学校で嘘をつくな、正直にしろと倫理の先生が、倫理というのは授業の名前です。
教えない方がいい。
一層思い切って学校で嘘をつく法とか、方法とか、人を信じない術とか、人を乗せる策を享受する方が、世のためにも当人のためにもなるだろう。
うん、小学校や中学校だと倫理の授業で、嘘をついてはいけませんとか、人を騙してはいけませんとか、
そういうことを教わるのに、社会に出たら、いやいや、正直過ぎたらうまくやっていけないよと言われると。
だったら、最初から嘘のつき方とか、そういうことを学校で教えたらいいのにと言っています。
赤シャツが「ほほほほ」と笑ったのは、俺の単純なのを笑ったのだ。
単純や真率、真っすぐなことが笑われる世の中じゃしょうがない。
清はこんな時に決して笑ったことはない。
大いに関心して聞いたもんだ。
清の方が赤シャツよりよっぽど上等だ。
うん。
また清のことを思い出してます。
坊っちゃんはずっと、何があっても「あなたは立派です。あなたは立派です。」と言ってくれた清と離れて社会に出て、
ま、いろんな社会の理不尽さだったりとか、そういったものを今経験しているわけですね。
そういったことを経験するたびに清のことを思い出しています。
清は坊っちゃんにとってはとってもとっても大切な存在ですね。
無論、悪いことをしなければいいんですが、自分だけ悪いことをしなくても、人の悪いのがわからなくっちゃやっぱりひどい目に遭うでしょう。
世の中には磊落なように見えても、淡白なように見えても、親切に下宿の世話なんかしてくれても、めったに油断のできないことがありますから。
またちょっと聞き慣れない言葉が出てきました。磊落。磊落な人と言ったら、さっぱりしていて心が広い人だそうです。
私は初めて聞きました、この言葉。
淡白っていうのもね、淡白な人というのもあっさりした人ですね。
はい。
あっさりさっぱりした人のことです。
そんな風に見えても、親切に見えても油断できないことがありますと。
ま、いい人そうに見えても、本当はどうだか分かりませんよということですね。
だいぶ寒くなった。
もう秋ですね。
浜の方は靄でセピア色になった。
いい景色だ。
おーい!
吉川君、どうだい?あの浜の景色は?と大きな声を出して野だを呼んだ。
なるほど、こりゃあ奇絶ですね。
奇絶。
極めて珍しい、素晴らしいという意味だそうです。
素晴らしい景色ですね。
時間があると写生するんだか、惜しいですね、このままにしておくのは。
と野だは大いに叩く。
時間があれば絵を描くんだけど、ま、景色のね、でも時間がないから残念です、と言ってます。
港屋の2階に明かりが1つついて、汽車の笛がヒューと鳴る時、俺の乗っていた船は磯の砂へざぐりと舳を突きこんで動かなくなった。
舳、色々ちょっと船に関する難しい言葉がたくさん出てきますが、舳というのは船の前の部分、先頭の部分だそうです。
「お早うお帰り」とかみさんが浜に立って赤シャツに挨拶する。
俺は船端...これもきっと船のどこか一部を指しているんだと思いますが、はい、船べりだそうです。船のこう左右の部分、はい。
ま、船の端と書いてますから、そうですね、船の端っこですね。
ま、大体意味、予測がつきますね。
船端からやっと掛け声をして磯へ飛び降りた。
はい、以上です。
はい。最後まで見てくださってありがとうございました。
今日の第5章では坊っちゃんが赤シャツ、教頭先生と、ちょっと嫌味な、嫌な先生、野だいこと一緒に釣りに出かけました。
そして2人がちょっと噂話、こそこそ話をしていて、何かこう...坊っちゃんにはまだちょっとわからないけど、
まだ詳しくは分からないけど、何かしら、こう、問題が以前、学校ではあったらしいということが分かったというお話でした。
はい、今回はなんかちょっとこう、坊っちゃんが、まだ若い23歳の坊っちゃんが社会に初めて出て、初めて社会というものを経験して、
色々大人にならなきゃいけないというか、すごく葛藤するような気持ちも描かれていました。
いかがでしたか?
今日はここまでです。
またね!