
こんにちは。
今日は坊っちゃんの第九章を読んでいきたいと思います。
坊っちゃんは全部で11章まであるお話なので、今9章ですから、もう物語も終盤に差し掛かりましたね。
終わりが近づいてきました。
じゃあ早速読んでみましょう。
うらなり君の送別会のあるという日の朝学校へ出たら、山嵐が突然、君、先立ってはいか銀が来て、
君が乱暴して困るからどうか出るように話してくれと頼んだから、真面目に受けて君に出てやれと話したのだが、
後から聞いてみるとあいつは悪いやつでよく偽筆へ贋落款などを押して売り付けるそうだから、全く君のこともでたらめに違いない。
ここからここまでのすごく長い文章でしたけど、ちょっと解説をします。
うらなり君の送別会があるんだそうです。うらなり君は遠くの学校に飛ばされることになってしまったので、
うらなり君の送別会があるその日の朝、坊っちゃんがいつものように学校に出勤すると、喧嘩中の山嵐が突然やってきて、
君、先立ってはこの前は、いか銀が来て、君が乱暴して困るからどうか出るように話してくれと頼んだから。
いか銀っていうのは坊っちゃんが前下宿していたところですね。
山嵐の紹介でもともとそこに下宿するようになったんだけど、山嵐がそこのいか銀の旦那さんから、
坊っちゃんが乱暴して困ってるっていう話を聞いたから、それで山嵐が坊っちゃんに出ていくように言いました。
で、坊っちゃんはちょっとこう...納得行ってなかったんだけど、
でもやむを得ずその下宿先を出て、今のおじいさんおばあさんがやってる今の下宿に移ったんでしたよね。
そのいか銀の話です。
山嵐はいか銀が坊っちゃんが乱暴して困るって言ってきた時に、真面目に受けて、その言葉をそのまま受け取って、
坊っちゃんに出ていきなさいっていう話をしたんだけど、でも後々聞いてみたら、いか銀の旦那が悪いやつだった。
どうやらあいつが悪者だったみたいだと言っています。
偽筆へ贋落款などを押して売り付ける。
えっと、このいか銀は骨董屋をやっていましたよね。
古い絵とか壺とか書とか、骨董品を売っている商売をしている人でした。
なんだけど...偽筆、偽の筆と書いてるので、ま、偽物を売り付けたりしてたんでしょうね。
多分。偽物の骨董品を高く売ってお金を稼いだり、あとは贋落款。
これもちょっと聞き慣れない言葉ですが、落款っていうのはハンコのことだそうです。
名前のハンコですね。
偽物のハンコを押して高く売り付けたりしているらしい。
ま、そういう噂を山嵐が聞いたんでしょうね、最近。
だから、まぁ、全く君のこともでたらめに違いないって山嵐は思い直したみたいです。
でたらめというのは、もうめちゃくちゃ。
全然合ってない。間違ってる。
嘘の情報のことを「でたらめ」って言ったりしますね。
だからそんなね、偽物を売り付けるような悪いやつだから、きっと坊っちゃんが乱暴して困ってるっていう話も嘘だったに違いないと山嵐は言っています。
坊っちゃんのところに突然言いに来ました。
君に掛け物や骨董を売り付けて商売にしようと思ってたところが、君が取り合わないで儲けがないものだから、あんな作り事をこしらえて誤魔化したのだ。
なるほど。
坊っちゃんに色々掛け軸とか骨董を売ろうとしてた。
売ってお金を儲けようとしてたのに、全然坊っちゃんが取り合わない。
もうあの...一生懸命売ろうとして話をしても、坊っちゃんが全然相手にしてくれないから、買ってくれないから、お金を儲けられなかった。
だからまぁ、このいか銀の人にしてみれば、なんか買ってくれると思ったのに何にも買わないから、坊っちゃんが下宿にいると損みたいな。
あの...もうちょっとこう色々お金出して買ってくれる人が下宿に来てくれた方が、
自分がお金を儲けられるということを考えて、坊っちゃんを追い出したかったんだろうと思ってるんですね、山嵐は。
だから坊っちゃんを追い出すために作り事、ね、作り話をこしらえて、こしらえてというのは、なんかこう...用意してみたいな意味ですね。
あんな作り話を考えて、こう...誤魔化した。
そして、坊っちゃんを出て行かせようとしたんだ。
僕はあの人物を知らなかったので、君に大変失敬した、勘弁したまえ、と長々しい謝罪をした。
はい。
その時山嵐はね、いか銀がそんな悪い人だなんて知らなかったので、
全部こう、真面目に受け取って、鵜呑みにして坊っちゃんが悪いと思い込んでね、坊っちゃんに失敬した。
ま、これはえっと、悪いことをした、失礼なことをしたという意味ですね。
勘弁したまえ。
勘弁してください。
悪かったです、許してください、と謝っています。
まぁ山嵐は誠実な人ですね。
ちゃんと悪かったことは悪いと認めて謝る誠実な人ですね。
俺は何とも言わずに山嵐の机の上にあった一銭五厘を取って俺のがま口の中へ入れた。
これは前に坊っちゃんが山嵐に奢ってもらって、だけど喧嘩をして、
「あんなやつに奢ってもらいたくない」と言って、お金を返したいということで一銭五厘を山嵐の机の上に置いておいた、あのお金ですね。
はい。それを取って...がま口は、こういうこうやって開けるタイプの昔のお財布です。
がま口の中へ入れた。
山嵐は、「君、それを引き込めるのか」と不審そうに聞くから、「うん、俺は君に奢られるのが嫌だったから是非返すつもりでいたが、
その後をだんだん考えてみると、やっぱり奢ってもらう方がいいようだから引き込すんだ」と説明した。
ずっとね、置いてあって埃をかぶってたのに、「それ引き込めるの?」「取るの?」いう風に山嵐が不審そうに疑うような感じで聞くから、
はい、ま、君におごられたくないから返そうと思ってたけど、やっぱり奢ってもらう方がいいから引き込ます...なんですかね。
ま、やっぱり、やっぱりもらっとく。
やっぱり返してもらうということですね。
まぁ坊っちゃんとしては、何でしょうね。
このいか銀の件で、山嵐との間にこうちょっとわだかまりがあった。
ね、嫌な感じがあったんだけど、ま、それがこの山嵐の謝罪で解決されたので、じゃあ奢ってもらうことにしようということで、お金を自分のお財布に入れました。
山嵐は大きな声をして「あははは」と笑いながら、そんならなぜ早く取らなかったのだと聞いた。
実は取ろうを取ろうと思ってたが、なんだか妙だからそのままにしておいた。
近来は...近来はっていうのは、まぁ、最近はというような意味でしょうね。
学校へ来て一銭五厘を見るのが苦になるくらい嫌だったと言ったら、君はよっぽど負け惜しみの強い男だと言うから、君はよっぽど強情っぱりだと答えてやった。
はい、負け惜しみが強いっていうのは、ま、自分の非を認めようとしない。
自分の悪かった部分とか、自分の失敗を素直に認めない人のことを負け惜しみが強いと言いますね。
はい。
強情っぱり。
ま、意地っぱりみたいな感じですね。
頑固で、もう、引かない。
自分の主張を押し通すみたいな感じです。
それから二人の間にこんな問答が起こった。
こんなやり取りがありました。
君は一体どこの産だ。
産...うーん...こんな言い方は今はしませんけど、「君は一体どこの生まれだ?」「どこの生まれなんだ?」と聞いてますね。
どこ出身?ということですね。
俺は江戸っ子だ。
うん、江戸っ子か。道理で負け惜しみが強いと思った。
君はどこだ?
僕は会津だ。
会津は今の福島県のあたりです。
会津っぽか、強情なわけだ。
会津出身がだから強情なんだなと言ってますね。
今日の送別会へ行くのかい?
行くとも。
君は?
俺は無論、もちろん行くんだ。
古賀さんが立つ時は浜まで見送りに行こうと思ってるくらいだ。
送別会は面白いぜ。
出てみたまえ。
今日は大いに飲むつもりだ。
これは山嵐の言ってるセリフですね。
いっぱい飲むと言っています。
勝手に飲むがいい。
俺は肴を食ったらすぐ帰る。
酒なんか飲むやつは馬鹿だ。
はい、ここ肴って書いてるんですけど、あの海を泳いでる魚という意味ではなくて、お酒と一緒にお酒を飲みながら食べるお料理のことを肴、酒の肴と言います。
だから坊っちゃんはお酒は飲まずに料理だけ食べてすぐ帰ると言っていますね。
君はすぐ喧嘩を吹きかける男だ。
なるほど、江戸っ子の軽佻な風をよく表してる。
喧嘩を吹きかける。坊っちゃんがいつも喧嘩を始めるんですね。何か余計なことを言ったりして喧嘩を吹きかける。
軽佻。
これはまぁ、軽はずみ、軽いということです。
何でもいい。
送別会へ行く前にちょっと俺の家へお寄り。
話があるから。
はい、なんかこう言い合いをしているような感じではありますけど、ま、仲直りをしたってことですかね。
坊っちゃんがちょっと話があるからうちに来いと山嵐を家に誘っています。
何の話をするんでしょうか。
次です。
山嵐は約束通り俺の下宿へ寄った。
俺はこの間からうらなり君の顔を見るたびに気の毒でたまらなかったが、
いよいよ送別の今日となったら、なんだか哀れっぽくって、できることなら俺が代わりに行ってやりたいような気がし出した。
坊っちゃんはちょっと気の毒に思っています。
うらなり君のことをかわいそうに思ってるんですね。
それで送別会の席上で大いに演説でもして、その...これは何て読むんだろう...「ぎょう」でいいのかな。
すいません。ちょっと分かりません。
...を盛んにしてやりたいと思うのだが、俺のべらんめい調子じゃ到底ものにならないから、
大きな声を出す山嵐を雇って一番赤シャツの荒肝をひしいでやろうと考えついたから、わざわざ山嵐を呼んだのである。
はい、坊っちゃんはうらなり君がかわいそうだから、今日のね、送別会の席で演説でもして、みんなの前に立って話をして、うらなり君をね、盛大に送り出したい。
ま、うらなり君の出発を盛り上げるためにスピーチをしたいと思うんだけど、
俺のべらんめい調子じゃ...べらんめい調子は、まちょっと喧嘩ごしの、喧嘩を仕掛けるような喋り方...じゃ到底ものにならない。
全然だめだから、大きな声を出す山嵐を雇って赤シャツの荒肝をひしいでやろう、驚かしてやろうと考えて、で、山嵐を呼んだんだそうです。
俺はまず冒頭としてマドンナ事件から説き出したが、山嵐は無論マドンナ事件は俺より詳しく知っている。
マドンナ事件、まぁ、うらなり君から赤シャツがマドンナをうばった事件ですね。
山嵐の方がその事件についてはよく知ってるんですね。
はい。
俺が野芹川の土手の話をして...野芹川の土手で温泉の帰りにマドンナと赤シャツが二人で歩いている姿を目撃した、あの話ですね。
あれは馬鹿野郎だと言ったら、山嵐は、君は誰をつらまえてもバカ呼ばわりをする。
誰をつらまえても、誰を捕まえても、みんなのことをバカって呼ぶじゃないか。
今日学校で自分のことをバカと言ったじゃないか。
自分が馬鹿なら赤シャツは馬鹿じゃない。
自分は赤シャツの同類じゃないと主張した。
自分というのは山嵐は自分のことを指してるんですかね。
ですね。
それじゃあ赤シャツは腑抜けの保助だと言ったら、そうかもしれないと山嵐は大いに賛成した。
坊っちゃんが山嵐が馬鹿で、赤シャツは同類じゃない、
同じ種類の人間じゃないと言うから、だったら赤シャツの方は腑抜けの保助にしようと言ったら、山嵐は大いに賛成した。
腑抜けっていうのは、なんかこう、フニャーと力が抜けちゃってる感じですね。
保助は、まぁアホっていうことだと思います。バカもアホも両方とも人を馬鹿にする言葉ですね。
山嵐は強いことは強いが、こんな言葉になると、俺よりはるかに字を知っていない。
会津っぽなんてものはみんなこんなもんなんだろう。
坊っちゃんは、山嵐は確かに強いけど、こんな言葉、こういうね、馬鹿だったり腑抜けだったり保助だったり、
こういう人を馬鹿にするような言葉になると、俺よりも知らないと言って山嵐を馬鹿にしてるんですけど。
自分の方が、ね、人を馬鹿にする言葉をよく知っていると言って、いい気になっています。
それから増給事件と、将来重く登用すると赤シャツが言った話をしたら、山嵐は、ふふんと鼻から声を出して、それじゃあ僕を免職する考えだなと言った。
まぁ、あの...うらなり君を田舎にやって坊っちゃんの給料を上げるみたいな赤シャツとのやり取りがありましたね。
その話を山嵐に伝えました。
そしたら、ああ〜...ってことは僕をね、山嵐ですね、僕を免職するんだな、首にするつもりなんだなと言っています。
ふふんって鼻で笑っているので、まぁ山嵐は「赤シャツらしいな」みたいな風に思ってるんだと思います。
免職するつもりだって、君は免職になる気かと聞いたら、誰がなるものか、自分が免職になるなら、赤シャツも一緒に免職させてやると大いに威張った。
どうして一緒に免職させる気かと押し返して尋ねたら、そこはまだ考えていないと答えた。
ここの「どうして」という言葉、普通、どうしてっていう質問って、なんでって理由を尋ねる時に使いますよね。
でもここ、多分文脈からすると、どうやって、どのようにしてという意味で使っているんじゃないかなと思います。
どうやって赤シャツを免職させるつもりなのかと尋ねたんですね。
そしたら山嵐はまだ考えていないと答えた。
山嵐は強そうだが、知恵はあまりなさそうだ。
あんまり賢くはなさそうだ。
俺が増給を断ったと話したら、大将大きに喜んで、さすが江戸っ子だ、偉いと褒めてくれた。
はい。大きには、大いに、すごくという意味ですね。
うらなりがそんなに嫌がっているなら、なぜ留任の運動をしてやらなかった?と聞いてみたら、
うらなりから話を聞いた時は既に決まってしまって、校長へ二度、赤シャツへ一度行って談判してみたが、どうすることもできなかったと話した。
うん、赤シャツは全部知っていたんですね。うらなり君が本当は行きたくないのに地方に行くことになったことを。
で、留任の運動...だからうらなり君が行かなくて済むように、残れるように、
今の学校に、残れるような運動、働きかけをどうしてしなかったんだ?と聞いてみたら、
まぁもうすでに決まっていて、ね、校長高シャツのとこに行ったけど、訴えたけど、どうすることもできなかった。
それについても古賀があまり好人物すぎるから困る。
ね、古賀さん、うらなりくんがいい人すぎるから困る。
赤シャツから話があった時、断然断るか、一応考えてみますと逃げればいいのに。
あの弁舌に、ね、うまい喋りに誤魔化されて即席に許諾したものだから、即席にその場ですぐに許諾した、オッケーを出したものだから、
後からお母さんが泣きついても、自分が談判に行っても役に立たなかったと非常に残念がった。
これは山嵐がですね。
山嵐が残念がっていた。
今度の事件は全く赤シャツがうらなりを遠ざけてマドンナを手に入れる策略、作戦なんだろうと俺が言ったら、無論そうに違いない。
あいつは大人しい顔をして、悪事を働いて、人が何か言うとちゃんと逃げ道をこしらえて待っているんだから、よっぽど奸物だ。
あんなやつにかかっては鉄拳制裁でなくっちゃ効かないと、瘤だらけの腕を捲って見せた。
え、ま、赤シャツはね、大人しい顔をして、悪いことしなそうな顔をして、悪事を働いて、
人が何か言うとちゃんとこう、言い逃れることができるような道を用意している。
ね、うまいこと言い訳をしたり。
だからよっぽど奸物だ。奸物。
これ私、初めて聞きました。
悪知恵の働く人のことだそうです。
はい。
悪知恵が働くというのは、知恵、賢さを、悪いことをするために使うということですね。
ね、あんなやつ鉄拳制裁...鉄拳制裁というのは、もう殴って懲らしめて制裁を下す。
鉄拳制裁でなくっちゃ効かないと言って腕をまくって見せた。
もう赤シャツは悪知恵が働いて、ね、なんか悪いことをしたことがバレても、指摘されてもなんとか言い逃れしようとする。
だからもうそんなやつはもう暴力でなんとか解決するしかないと山嵐は言ってますね。
俺はついでだから、君の腕は強そうだな、柔術でもやるかと聞いてみた。
柔術は柔道の基になったものだそうです。
すると大将二の腕へ力こぶを入れて、ちょっと掴んでみろと言うから、指の先で揉んでみたら何のことはない、湯屋、お風呂にある軽石のようなものだ。
はい、石のようにカチカチ。
山嵐はムキムキなんですね。筋肉モリモリ、ムキムキです。
次です。
俺はあまり感心したから、「君、そのくらいの腕なら、赤シャツの五人や六人は一度に張り飛ばされるだろう」と聞いたら、
無論さ、もちろんさと言いながら、曲げた腕を伸ばしたり縮ましたりすると、力こぶがぐるりぐるりと皮の中で回転する。
すこぶる愉快だ。
面白い。
すこぶるは、すごく、ものすごくっていう意味ですね。
山嵐の証明するところによると、かんじんより...このかんじんよりというのは私も知らないんですけど、
なんか紙をこう細く捻って、細い棒状にしたものなんだそうです。
それを二本寄り合わせてこの力こぶの出るところへ巻き付けて、うんと腕を曲げると...あ、なるほど。
このね、腕を曲げるとここに筋肉の力こぶができるから、ここに巻いた紙がぶつっと、ぷつりと切れるそうだ。
かんじんよりなら俺にもできそうだと言ったら、できるものか、できるならやってみろと来た。
切れないと外聞が悪いから俺は見合わせた。
外聞が悪い...まぁ外から分かる様子が悪いというのは、
まぁもしね、できるって言ってやってみてできなかったら、ちょっとこう...恥ずかしい思いをするじゃないですか、坊っちゃんが。
だから見合わせた。
やめておいた。
やめといた。
ということです。
君どうだ?今夜の送別会に大いに飲んだ後、赤シャツと野田を殴ってやらないかと面白半分に勧めてみたら、
山嵐はそうだなと考えていたが、今夜はまあよそうと言った。
なぜ?と聞くと、今夜は古賀に気の毒だから。
それにどうせ殴るくらいなら、あいつらの悪いところを見届けて、現場で殴らなくっちゃこっちの落ち度になるからと、分別のありそうなことを付け足した。
山嵐でも、俺よりは考えがあると見える。
はい。
坊っちゃんは山嵐に送別会でお酒飲んで、酔った勢いで殴ってやらないかと、まぁ面白半分、冗談半分に勧めてみたんだけど、山嵐は今夜はやめとこうと言いました。
なぜかと言うと、ま、今夜はね、うらなり君の、古賀先生の送別会ですから、今夜そんな問題を起こしたら古賀先生に悪いから、ね、やめておこうと。
それにどうせ殴るんだったら、赤シャツと野田の悪いところを見て、その現場で殴らないと、こっちの落ち度になる。
だから、山嵐が悪者になってしまう。
山嵐が悪いということになってしまうからと、分別のありそうなことを付け足した。
分別がある。
分別があるっていうのは、ま、善悪の区別がついている。
いいこと、悪いことの区別がちゃんとついているということですね。
じゃあ、演説をして、古賀君を大いに褒めてやれ。
俺がすると江戸っ子のペラペラになって重みがなくていけない。
そして決まったところへ出ると、急に溜飲が起こって、喉のところへ大きな玉が上がってきて言葉が出ないから、
君に譲るからと言ったら、妙な病気だな、じゃあ君は人中じゃ口は聞けないんだね。
困るだろうと聞くから、何そんなに困りはしないと答えておいた。
殴るのはやめとこうと山嵐が言うので、坊っちゃんが、じゃあ演説をして、古賀君のことをたくさん褒めてあげてと言いました。
ま、坊っちゃんがすると、なんかペラペラ、軽い感じになっちゃう。こう、重みがない軽い感じになっちゃうから。
そして、坊っちゃんはあんまりこう、人前で喋るのが得意じゃなかったですよね。
うーん...溜飲は、なんかこう、ここが胸焼けがするというか、もやもやするような感じになって、喉のところに大きな玉がこう上がってきて、言葉が出ない。
ここで止まっちゃって、詰まっちゃって言葉が出ないから、君に譲るよ、君が演説をしてくれって言ったら、
妙な病気だな、じゃあ君は人中...ま、人前っていうことでしょうね、じゃ口は聞けないんだね。喋れないんだね。
困るだろうと聞くから、そんなに困りゃしないと答えておいた。
そうこうするうち時間が来たから山嵐と一緒に会場へ行く。
会場は花晨亭といってここで第一等の料理屋だそうだが、俺は一度も足を入れたことがない。
高級料理店でうらなり先生の送別会が行われます。
元の家老とかの屋敷を買い入れてそのまま開業したという話だが、なるほど見かけからして厳しい構えだ。
家老の屋敷が料理屋になるのは、陣羽織を縫い直して胴着にするようなものだ。
え、まぁ、昔の家老というのは偉い身分の人ですね、の大きなお屋敷、家を買い入れて、で、開業した。
ね、店をオープンしたという話だが、ま、見かけからして、厳しい、こう...ちょっとこう...厳かな雰囲気。
すごい立派な重々しい感じの雰囲気の構えだ。
見た目だ。
家老の屋敷が料理屋になるのは、陣羽織...陣羽織というのもちょっと私は知らなかったので調べたら、戦争の時に鎧の上に着る羽織りだそうです。
それを縫い直して胴着...胴着というのは昔の下着だそうです。
服の中に着る下着の一種だそうです。
(胴着)にするようなものだ。
二人がついた頃には人数ももう大概揃って、五十畳の広間に二つ三つ人間の塊ができている。
もうみんなグループに分かれて話をしているんですね。
五十畳だけに床は素敵に大きい。
俺が山城屋で占領した十五畳敷の床とは比較にならない。
山城屋は何でしたかね。
はい、山城屋は坊っちゃんがこの地に来て最初に泊まった宿ですね。
十五畳の広い部屋に泊まったんですけど、それとは比較にならないぐらい大きいお部屋でした。
尺を取ってみたら二間あった。
一間が180センチだそうなので、二間は360センチ、3メートル60センチですね。
右の方に赤い模様のある瀬戸物の瓶を据えて、その中に松の大きな枝が挿してある。
瀬戸物は焼き物ですね。陶器のお皿とか湯飲みとかね、ありますよね。焼き物を瀬戸物って言います。
瀬戸物の瓶、まぁ瓶って言うと、入れ物、容器を据えて、置いて、その中に松の大きな枝が挿してある。
松の枝を挿して何にする気か知らないが、何ヶ月経っても散る気遣いがないから銭がかからなくってよかろう。
ま、おそらく想像するに、瀬戸物の瓶があって、そこに松の枝が挿してある、ちょっとね、高級な雰囲気のインテリアなんだと思うんですけど、
坊っちゃんはそれを見て、松の枝枝ですから、お花のようにすぐには散らないですよね。
散ったり枯れたりしないので、あ、だからお金がかからない。
お金がかからなくていいねと言っています。
あの瀬戸物はどこでできるんだと博物の教師に聞いたら、あれは瀬戸物じゃありません、伊万里ですと言った。
伊万里だって、瀬戸物じゃないかと言ったら、博物はえへへへへと笑っていた。
後で聞いてみたら、瀬戸でできる焼き物だから瀬戸と言うのだそうだ。
はい、瀬戸物というのは、えっと、ま、今では結構一般的にもう、さっきも言ったように陶器でできたもの、
焼き物のことを瀬戸物って呼んだりするんですけど、元々は瀬戸、愛知県の瀬戸という場所が、そういう陶器のものが作られる有名な場所で、
で、そこでできたものを瀬戸物って呼んでいた。
ま、今もそう呼んでいるのかもしれないけど、今はそれ以外でもまぁ瀬戸物って言ったら、他の地域で作られたものも瀬戸物って呼ぶことがあるんですけど。
元々はそこで作られたものだけを瀬戸物と呼んでいた。
で、「伊万里です」というのは、伊万里も有名な、そういう焼き物の産地で、九州の佐賀県にあるんですけど、
博物の教師は「いや、あれは伊万里だ。瀬戸物ではない。」と坊っちゃんに教えました。
俺は江戸っ子だから、陶器のことを瀬戸物というのかと思っていた。
床の真ん中に大きな掛け物があって、掛け軸ですね、があって、俺の顔くらいの大きさな字が二十八字書いてある。
どうも下手なもんだ。
あんまりまずいから、漢学の先生に「なぜあんなまずいものを霊々とかけておくんです?」と尋ねたところ、
先生は、あれは海屋と言って有名な書家の書いたものだと教えてくれた。
海屋だか何だか、俺は未だに下手だと思っている。
結構こう、書道家の人が書いた字とかもそうですけど、掛け軸に書いてある字って、くしゃくしゃくしゃって書いてあって、
ちょっとね、こう...素人、一般の人には、どれが上手くてどれが下手なのか、どれがいいものなのか、よくわからないところがありますね。
詳しくない人、アートとかね、美術とかもそうですけど、詳しくない人が見ると、何がいいのかよくわからないみたいなことがあるじゃないですか。
坊っちゃんはおそらく、こういう芸術とか、そういったものに疎い、あまり詳しくない人だったんでしょうね。
だから、その陶器のことも分からないし、この掛け軸に書いてある字の素晴らしさも理解できませんでした。
やがて書記の川村がどうかお着席を、座ってくださいと言うから、柱があって寄りかかるのに都合のいいところへ座った。
柱があって、寄り掛かるというのはこうやってね、こう背中をこう、だら〜んと柱に...柱を背もたれにすることができる都合のいいところに座りました。
海屋の掛け物の前に狸が羽織袴で着席すると、左に赤シャツが同じく羽織り袴で陣取った。
羽織袴は昔のこの時代の男の人の正装ですね。
きちんとした時に着る服。
ま、今で言うスーツみたいな。
今は羽織袴は、成人式の時とか結婚式の時、ま、結婚式は結婚式でもその結婚する本人ですね。
新郎ぐらいしか着ないんじゃないかなと思います。普通の人は。
おそらくこの当時は、羽織袴を着ることがまだまだ今よりもずっと一般的だったんだと思います。
で、うらなり先生のね、送別会、うらなり先生を送り出す特別な日なので、狸と赤シャツは羽織袴を着て登場しました。
掛け物の前に陣取った。
そこの席を取ったということです。
右の方は主人公だというのでうらなり先生、これも日本服で控えている。
俺は洋服だからかしこまるのが窮屈だったから、すぐ胡座をかいたをかいた。
はい、右の方の席は主人公のうらなり先生が座ります。
日本では、上座下座って皆さん聞いたことあるでしょうか。
偉い人とか、その会の主役の人は、上座と呼ばれる場所に座ります。
上座は普通、部屋の奥の方とかですね。
で、手前の方というか、ドアとか入り口に近いところは下座って言われて、下の方の人が座る席ですね。
だから会社でもし例えば会議をするとしたら、会議室の中でドアから遠い奥の方、上座に社長とか部長とか、偉い人が座って、平社員は下座に座ったりします。
狸はあれですよね、校長先生ですよね。だから今回のこの会の出席者の中では一番偉い人ですね。
と、ま、次に偉い教頭先生、赤シャツ。
それから、この日の主役のうらなり先生が上座に座っているんだと思います。
うらなり先生も日本服ですから羽織袴で来ています。
ま、日本では、えっと、床に座る場合、畳に座る場合、きちんとした、かしこまった座り方は正座です。
でもズボンで正座をするのって、結構窮屈ですね。
だから坊っちゃんはすぐに胡座をかきました。
隣の体操教師は黒ズボンでちゃんとかしこまっている。
体操の教師だけに、嫌に修行が積んでいる。
体操の教師ですから、体育の教師ですから、いろいろねきつい運動とかをして、まぁ修行...修行じゃないですけど、
きつい練習とかをこう積んできた人だから、ちゃんと体操教師は窮屈でもきちんとかしこまって正座をしています、坊っちゃんだけ胡座をかいています。
やがてお膳が出る。
ま、料理が運ばれてきました。
徳利が並ぶ。
徳利、もしくはとっくりというのは、日本酒が入ってる、お酒が入ってる入れ物のことです。
それが並べられました。
幹事...幹事はその会を仕切る人ですね。幹事が立って一言開会の辞を述べる。
ま、開会、始まりの挨拶をしたんですね。
それから狸が立つ。
赤シャツが立つ。
ことごとく送別の辞を述べたが、三人とも申し合わせたように、うらなり君の良教師で好人物なことを吹聴して、今回去られるのは誠に残念である。
学校としてのみならず、個人として大いに惜しむところであるが、ご一心上のご都合で切に転任をご希望になったのだから致し方がないという意味を述べた。
はい。
幹事に続いて、狸と赤シャツ、校長先生と教頭先生も送別の辞を述べました。お別れの挨拶をしました。
で、三人とも申し合わせたように、申したというのは、事前に相談して、こうしようこうしようって決めていたかのように、
うらなり君がいかに良い先生で良い人かということを、吹聴...ま、みんなに言って広める。
吹聴して、本当に残念ですと。
もう学校としても残念だし、個人としても、私個人としてもすごく残念だと言ったんですね。
だけどご一心上の都合で切に転任をご希望になったのだから、致し方がない。
ま、切に希望するっていうのは、えっと、うらなり先生自身がどうしてもと言ってお願いして、希望して転任するんだから、残念だけど仕方がないです。
と言いました。
一心上の都合でっていうのは、退職する時、仕事を辞めるような時によく使われる、もうテンプレートのように使われる言葉なんですけど。
あの、まぁ、個人的な理由でという意味ですね。
あまりこう、具体的に「こうこうこれが理由で辞めます」っていう風には言わずに、
「ちょっと個人的な事情があって...」というこの「一身上の都合で」という言葉を使って退職届に書いたりすることがすごく多いです。
はい、続きです。
こんな嘘をついて送別会を開いて、それでちっとも恥ずかしいとも思っていない。
ことに赤シャツに至って、三人のうちで一番うらなり君を褒めた。
この良友を失うのは実に自分にとって大なる不幸であるとまで言った。
はい。
良友は、まぁ良き友ですね。この漢字の通り。
赤シャツはね、いろいろうらなり先生にひどいことをしておきながら、この良友を失うのは本当に悲しい、不幸だとまで言った。
しかも、その言い方がいかにももっともらしくて、例の優しい声を一層優しくして述べたてるのだから、初めて聞いたものは誰でもきっと騙されるに決まってる。
もういかにもね、本当のことかのように言うので、事情を知らない人は騙されてしまいそうだと、はい、坊っちゃん腹を立ててますね。
マドンナも大方この手で引っ掛けたんだろう。
赤シャツが送別の辞を述べ立てている最中、向かい側に座っていた山嵐が、俺の顔を見てちょっと稲光をさした。
俺は返電として人差し指でべっかんこうをして見せた。
えっと、稲光というのは、普通は、まぁ雷の稲妻の光ですね、ピカッという...のことですけど、ここでは山嵐が坊っちゃんの方にこう、ちょっと目配せをした。
目で合図を送ったみたいな感じですね。
そして俺は返電として、ま、これは返事ですね。
返事として人差し指でべっかんこう...べっかんこうってこれは今の言葉だと「あっかんべえ」と言います。あっかんべ。
なんであっかんべをするんでしょうね。
ま、あっかんべは、ちょっとこう...子供とかがね、いたずらをしてあかんべってしたりしますよね。
赤シャツが座に復するのを待ちかねて山嵐がぬっと立ち上がったから、俺は嬉しかったので、思わず手をパチパチと打った。
赤シャツが、座に復するというのは、ま、スピーチを終えてまた座るということですね。
それをもう待ちかねて、待ってました!ああ、やっと終わった!という感じで、山嵐が立ち上がりました。
山嵐何を言うんでしょうか。
すると狸を始め、一同がことごとく俺の方を見たには少々困った。
山嵐は何を言うかと思うと、只今校長をはじめ、ことに教頭は古賀君の転任を非常に残念がられたが、
私は少々反対で、古賀くんが一日も早く当地を去られるのを希望しております。
意外なことを言いましたね。
古賀先生が早く、一日も早くこの地を去ってほしいと。
延岡は僻遠の地で、当地に比べたら、ここと比べたら物質上の不便はあるだろうが、
聞くところによれば、風俗のすこぶる純朴なところで、職員生徒とことごとく上代樸直の気風を帯びているそうである。
ちょっと難しい言葉がたくさん出てきました。
延岡というのは、今度うらなり先生が赴任する場所ですね。
そこはもう、僻遠の地、へんぴな場所。
田舎のね、外れにある場所で、ここと比べれば不便はあるだろうけど、山嵐が聞いた話によると...ここでいう風俗は、習わしとかのことでしょうかね。
すこぶる純朴なところで、純朴というのは、とても素直なということですね。
で、職員生徒とことごとく上代樸直...上代というのは大昔のことを指しているんだそうです。昔の時代ということですね。
樸直、これは正直であるということ。
昔から変わらず正直な人たち、職員生徒が多い場所なんだそうです。
心にもないお世辞を振りまいたり、美しい顔をして君子を落とし入れたりするハイカラ野郎は一人もいないと信ずるからして、
君のごとき温良篤厚の士は必ずその地方一般の歓迎を受けられるに相違ない。
なるほど、ま、この赤シャツたちのように心にもない、思ってもいないお世辞を言ったり、
ね、綺麗な顔して美しい顔して陥れる、人を騙して苦しめる、そんなハイカラ野郎は一人もいない。
ハイカラ野郎。
ハイカラは、ちょっと一昔前の言葉ですけど、今はあんまり使わないんですけど、ま、おしゃれという意味ですね。
元々ハイは高いの意味のハイですね。
カラはカラー、この襟...襟の、服の襟のカラーから来てるらしくて、ハイカラっていうと、
ま、当時、明治時代は日本が江戸時代、お侍さんの時代からちょっとずつこう、欧米のものを取り入れて近代化していく時代ですから、
ま、この頃、和服ではなくて洋服、襟のついた洋服を着ているというのは、すごくモダンでお洒落なことだったんですよね。
そこから来てるみたいです。それで、今時でお洒落っていうのをハイカラと言っていました。
ま、これはおそらく赤シャツのことを指しているんでしょうね。
赤シャツはそのあだ名の通り、坊っちゃんがつけたニックネームの通り、
赤いシャツを、襟付きのシャツを当時着ているような人ですから、ハイカラ野郎ですよね、正に。
山嵐はそんな赤シャツみたいなやつは延岡にはいないらしい。
いい人ばっかりらしい。
君のごとき、うらなり先生のような温良篤厚の士...えっと、温良は、まぁ字を見るとなんとなく分かると思うんですけど、暖かい穏やかないい人ですね。
篤厚は人情に厚い思いやりのある誠実な人ですね。
そんなうらなり先生はきっとその地方一般の歓迎を受けられるに違いない。
はい、延岡の人たちから受け入れられるだろうと言ってます。
我が輩、自分のことですね。
我が輩は、大いに古賀君のためにこの転任を祝するのである。
ね、こんな嫌な奴がいるこの地を離れて延岡に行った方が古賀君のためだ言っています。
終わりに、臨んで君が延岡に赴任されたら、その地の淑女にして君子の好逑となるべき資格あるものを選んで
一日も早く円満なる家庭を形作って、この不貞無節なるお転婆を事実の上に置いて慚死せしめんことを希望します。
これもちょっと難しい言葉がたくさん出てきました。
はい。
えっと、まぁ、うらなり先生が延岡に行ったら、その延岡の淑女、品のいい、品格の高い素敵な女性ですね。
紳士淑女って言ったりしますね。
...にして、君子の好逑となるべき資格...好逑は、ちょっとこれも私は初めて聞いた言葉なんですけど、配偶者、夫、妻ですね。
はい、パートナーとなるべき資格あるものを選んで、一日も早く円満になる、幸せな家庭を作って、
かの、あの、不貞無節なるお転婆...不貞、ま、不貞行為とか言うと、例えばまぁ結婚しているのに不倫をしたりとかね。
そういうのを不貞行為って言ったりしますけど、ま、そんなことをする女を事実の上において、事実上慚死せしめんことを希望します。
慚死っていうのもちょっとね、あんまり聞き慣れない言葉なんですけど、
深く恥じること、恥ずかしい行いだったと反省することですね。深く恥じることを希望します。
えへんえへんと、二つばかり大きな咳払いをして席に着いた。
ま、ここで山嵐は直接的には言ってないですけど、赤シャツのことをすごく非難しているんですよね。
赤シャツ、そして、ま、これはマドンナのことですね。
ここにマドンナは...この席にはいませんから、学校の関係者じゃないので。
ま、赤シャツに対する嫌味ですね、はい、山嵐の。
俺は今度も手を叩こうと思ったが、またみんなが俺の顔を見ると嫌だからやめにしておいた。
山嵐が座ると、今度はうらなり先生が立った。
うらなり先生は何を言い出すんでしょう?
先生はご丁寧に自席から座敷の...座敷というのは、その畳の部屋ですね。
座敷の端の末席まで行って、末席というのはさっき言ってた下座のことですね。上座下座の下座のことです。
末席まで行って、慇懃に、礼儀正しく慇懃に一同に挨拶をした。
みんなに挨拶をした。
...うえ、それから、今般は、これは「この度は」「今回は」という意味だそうです。
一身上の都合で九州へ参ることになりましたについて、諸先生方が、先生たちが、ま、いろんな先生たちが、
小生、自分のことですね、小生のためにこの盛大なる送別会をお開きくださったのは、
誠に感銘の至りに絶えぬ次第で...本当に感激しています、ありがとうございますという感謝の気持ちですね。
ことに、ただ今は、校長、教頭その他の送別の辞を頂戴して、お別れの挨拶の言葉をいただいて、大いにありがたく服膺するわけであります。
服膺...なんでしょうか。
服膺。
服膺は、ありがたく心に留めて忘れないことだそうです。
このありがたい気持ちを心に留めて忘れないようにしますと言っています。
私はこれから遠方へ参りますが、何卒従前の通りお見捨てなくご愛顧のほどを願います。
これまで通り見捨てないで、ご愛顧のほどを願いますというのは、可愛がってくださいという意味ですね。
と、へえつく張って席に戻った。
へえつく張って...こう、すいません、すいませんというような感じで席に戻りました。
うらなり君はどこまで人がいいんだか。
ほとんど底が知れない。
うらなり君のね、人の良さ、お人好しなところが、坊っちゃんは理解ができません。
自分がこんなに馬鹿にされている校長や教頭に恭しくお礼を言っている。
ね、こんなに校長や教頭に馬鹿にされているのに、ちゃんと二人のことを敬って礼儀正しくお礼を言っている。
それも義理一遍の挨拶ならだが、あの様子やあの言葉つきやあの顔つきから言うと、心から感謝しているらしい。
ま、義理一遍というと、一応ね、形として義理として挨拶ちゃんと目上の人に対してしなくちゃいけないから...という、形だけの挨拶をする。
ならわかるけど、そうじゃなくて本当に心から、心底感謝してるみたいだ。
こんな聖人、こんないい人に真面目にお礼を言われたら、気の毒になって赤面しそうなものだが、狸も赤シャツも真面目に謹聴しているばかりだ。
謹聴。
慎んで聞く。
まぁ聞くということですね。
しっかりと耳を傾けて聞くばかりだ。
挨拶が済んだらあちらでもちゅー、こちらでもちゅーという音がする。
俺も真似をして汁を飲んでみたが、まずいもんだ。
口取りにかまぼこはついているが、口取り...口取りというのは、最初に出される一品のお料理のことだそうです。
口取りにかまぼこはついてるが、どす黒くてちくわの出来損ないである。
かまぼこ...どす黒いかまぼこってどんなんでしょうね。
ま、ちくわの出来損ない、出来損ないというのは失敗作、みたいなかまぼこが最初の一品として出てきたんだそうです。
はい。
食事にも文句を言っている坊っちゃんです。
刺身も並んでいるが、厚くてマグロの切り身を生で食うと同じことだ。
それでも隣近所の連中はむしゃむしゃうまそうに食っている。
大方江戸前の料理を食ったことがないんだろう。
坊っちゃんはね、江戸出身、ま、江戸は江戸前寿司と言ってお寿司有名ですからね。
江戸前の料理を食べたことがないんだなこいつらは、とまた馬鹿にしています。
そのうち燗徳利...これはお酒ですね。さっき言ったとっくりに入ったお酒ですね...が、頻繁に往来し始めたら、四方が急に賑やかになった。
はい、四方、周りみんなが急に賑やかになった。
野田公は恭しく校長の前へ出て盃をいただいてる。
嫌なやつだ。
うらなり君は順々に献酬をして、一巡巡るつもりと見える。
献酬もね。あんまり使う...一般的に使う言葉じゃないですけど、
ま、お酒をね、そういう宴会の席とかたくさん人が集まったような時には、ま、例えば結婚式の披露宴とかでもそうですけど。
ま、主役の人はみんなの席に回って、ね、お酒をついで乾杯して、一人一人とね、今日はありがとうございますと言ってお酒を飲むんですね。
はい、それのことを指しています。
こう一周、ね、一巡回る、巡るつもりと見える。
甚だご苦労である。
うらなり君が俺の前へ来て、一つ頂戴いたしましょうと、袴のひだを正して申し込まれたから...一杯くださいと来たから、
俺も窮屈にズボンのままかしこまって、ここでは正座をしてという意味ですね、一杯差し上げた。
せっかく参ってすぐお別れになるのは残念ですね。
ご出立はいつです?
ご出発はいつですか?
ぜひ浜までお見送りをしましょうと言ったら、うらなり君は、いえ、ご用多のところ決してそれには及びませんと答えた。
うん、えっとまぁ、ご用多...坊っちゃん、お忙しいでしょうから、先生もお忙しいでしょうから、結構ですよと言っています。
うらなり君が何と言ったって、俺は学校を休んで送る気でいる。
それから一時間ほどするうちに、席上はだいぶ乱れてくる。
まぁ一杯、おや、僕が飲めと言のに、などと呂律のまわりかねるのも一人二人できてきた。
呂律がまわらないと言ったら、酔っ払ってこう...きちんと喋れないことを呂律がまわらないと言います。
少々退屈したから便所へ行って、トイレへ行って、昔風な庭を星明かりに透かして眺めていると山嵐が来た。
どうだ、さっきの演説はうまかったろ、とだいぶ得意である。
得意げに、よかっただろう、さっきの、と言いに来ました。
大賛成だが、一か所気に入らない、と抗議を申し込んだら、どこが不賛成だ?
どこが良くなかったんだ?と聞いた。
美しい顔をして人を陥れるようなハイカラ野郎は延岡におらないからと君は言ったろ。
うん。
ハイカラ野郎だけでは不足だよ。
じゃあ何と言うんだ?
ハイカラ野郎のペテン師のイカサマ師の猫っかぶりの香具師のモモンガーの岡っ引きのワンワン鳴けば犬も同然なやつとでも言うがいい。
赤シャツに対する悪口がいっぱい出てきました。
ハイカラ野郎はさっき説明しましたね。
ペテン師、イカサマ師は、まぁ嘘つき、詐欺師みたいな感じです。
猫っかぶりは、人前で猫をかぶっていい人のふりをして、実は裏では悪いことをしている。
そういう人を猫っかぶりと言います。
香具師。
さあこれは私も知らない言葉でしたが、的屋のことだそうです。
的屋というのは祭りとかで、今でもいるんですけど、ま、露天とかね、出店を出して商売をしている。
ま、そういうお祭りとかをこう...渡り歩いて商売をしている人たちのことを香具師と言っていたんだそうです。
モモンガー。
モモンガーは動物の名前ですね。
はい。でもこれを赤シャツを罵る言葉として、悪口として使っています。
岡っ引き。
これもちょっとね、知らなかったんですけど、ま、当時同心と呼ばれる、なんだろう...役人の階級があって、
その下働きとして、その人のまぁ、サポート役というか、下働きとして働いてた人?
ちょっとよくわからないんですけど、ま、これもちょっとこう...見下す言葉として使っています。
そしてワンワン鳴けば犬も同然なやつ。
そう言ってやればよかったとね、言ってます。
俺にはそう舌は回らない。
ま、舌が回るというのは、早口でわぁーって喋ることですね。
君は能弁だ。
能弁。
これは話し方がうまいという意味だそうです。
第一、まず、単語を大変たくさん知ってる。
それで演説ができないのは不思議だ何これは喧嘩の時に使おうと思って用心のために、念のため取っておく言葉さ。
演説となっちゃこうは出ない。
いざ演説をするとなると、そんな風にうまくは出てこないと。
そうかな、しかしペラペラ出るぜ。
もう一遍やってみたまえ。
何遍でもやるさ。
いいか。
ハイカラ野郎のペテン師のイカサマ師の...と言いかけていると、縁側をドタバタ言わして二人ばかりよろよろしながら駆け出してきた。
両君そりゃひどい。
逃げるなんて。
僕がいるうちは決して逃さない。
さあ飲みたまえ。
いかさま師?
面白い。いかさま面白い。
さあ飲みたまえ。
誰か酔っ払った人が絡んできました。
これ両君はおそらくこの二人のことですね、坊っちゃんと山嵐。
飲め飲めと言って、ね、逃げないで飲みなさいと言って、坊っちゃんたちを連れていきます。俺と山嵐をぐいぐい引っ張っていく。
実はこの両人とも便所に来たのだが、酔ってるもんだから便所へ入るのを忘れて俺らを引っ張るのだろう。
その二人は本当はトイレをするために来たんだけど、酔っ払ってて何しに来たか忘れて坊っちゃんたちを引っ張って部屋の方に戻ってきました。
酔っ払いは目の当たるところへ用事をこしらえて、前のことはすぐ忘れてしまうんだろう。
もう目についたところで何か用事を作って前に何をしようとしてたのかなんてね、すぐ忘れてしまいます。
さあ諸君、いかさま師を引っ張ってきた。
さあ飲ましてくれたまえ。
いかさま師をうんと言うほど酔わしてくれたまえ。
君逃げちゃいかんと、逃げもせぬ俺を壁際へ押し付けた。
諸方、あちこち、あちらこちらを見回してみると、膳の上に満足な肴ののっているのは一つもない。
自分の分を綺麗に食い尽くして、五、六間先へ遠征に出たやつもいる。
校長はいつ帰ったか、姿が見えない。
ま、遠征って、普通はスポーツとかやってる人が、別の地方に行って、練習したりとか、試合があったりすることを遠征するって言ったりするんですけど、
ま、遠くに行くということですね。自分の席の食べ物を全部食べて、食い尽くして、で、ま、ちょっと遠くの席に食べ物を探しに行ったやつもいると。
ところへお座敷はこちら?と芸者が三、四人入ってきた。
俺も少し驚いたが、壁際へ押し付けられているんだから、じっとしてただ見ていた。
芸者さんというのは、ちょっと今の時代はあんまりないと思いますけど、
昔はお酒の席を盛り上げるために、和服を着た女性がですね、踊ったり、何かこうパフォーマンスをしたりするようなことがありました。
そういうことをする人のことを芸者と言います。
芸者が入ってきたんですね。
すると、今まで床柱へももたれて例の琥珀のパイプを自慢そうに加えていた赤シャツが、急に立って座敷を出にかかった。
向こうから入ってきた芸者の一人が、行き違いながら笑って挨拶をした。
その一人は一番若くて一番綺麗なやつだ。
遠くで聞こえなかったが、「おや、こんばんは」ぐらい言ったらしい。
赤シャツは知らん顔をして、知らないふりをして、出ていったぎり、出て行ったきり、顔を出さなかった。
大方校長の後を追いかけて帰ったんだろう。
芸者が来たら、座敷中、お部屋中、急に陽気になって、明るく元気になって、一同が鬨の声をあげて歓迎したのかと思うくらい騒々しい。
騒がしい、うるさい、ですね。
鬨の声は、頑張るぞっていう、気持ちを鼓舞する、気持ちを高めるために出す叫び声のことだそうです。
わあってみんながね、声を上げていたんでしょうね。
そうして、あるやつは何個を掴む。
はい。ここもちょっと私意味が分からなかったので調べたんですけど、まぁ昔そういう遊びがあったんだそうです。
手にこうやって、見ないでね、石とか豆を掴んで、何個掴んだか当てるっていうゲームが昔あったんだそうです。
はい、そのゲームをしている人もいました。
その声の大きなこと、まるで居合抜きの稽古のようだ。
居合い抜きは、あの...こうやって、こう刀をシュッと抜いて相手を斬る、あ、しかもこう、立った姿勢じゃなくて座った状態から、
座った姿勢からシュッシュッっていう、この速さを見せるパフォーマンスのことらしいです。
技ですね。剣の技です。
その稽古、練習をしているようだ。
だから、ま、「ハッ」みたいな、こう、声を出して居合抜きをするんでしょうね。
まるでその稽古のようだ。
こっちでは拳を打ってる。
はい、これもですね、昔の遊びですね。
昔の人の遊び。
ま、じゃんけんの一種みたいです。
よっ、はっ、と夢中で両手を振るところは、ダーク...ダーク一座の操り人形よりよっぽど上手だ。
はい、これもちょっと調べました。
まず操り人形というのは、ちょっと画像を貼っておきます。
で、ダーク一座というのは、日本で最初に西洋の操り人形を公演したイギリスの劇団の名前だそうです。
それよりもよっぽど上手に両手を振っている。
向こうの隅では、「おい、お酌だ」お酌というのはお酒をつぐことですね...と、とっくりを振ってみて、酒だ酒だと言い直している。
どうもやかましくて、騒々しくてたまらない。
そのうちで手持ち沙汰に下を向いて考え込んでいるのはうらなり君ばかりである。
手持ち無沙汰というのは、何をすればいいか分からない。
何もすることがなくて、下を向いて考え込んでいるのはうらなり君だけだ。
自分のために送別会を開いてくれたのは、自分の転任を惜しんでくれるんじゃない。
みんなが酒を飲んで遊ぶためだ。
自分一人が手持ち無沙汰で、何もすることもなく苦しむためだ。
こんな送別会なら開いてもらわない方がよっぽどましだ。
本当ですね。
みんな、ね、校長とかはね、社交辞令で挨拶の時だけ、うらなり先生がいなくなって残念ですって言って、
もういざ会が始まったらみんなうらなり君のことなんて忘れてお酒飲んで楽しんでる。ただただ騒いでいる。
しかも校長と教頭はどっか行っちゃいましたしね。
うらなり君は一人うつむいています。
しばらくしたら、めいめい、胴間声を出して何かを歌い始めた。
めいめい、これは、えっと、まぁ各々、それぞれ。
みんなそれぞれに胴間声...これも私は知らない言葉だったんですけど、美しい綺麗な声ではないですね。
濁った太い声で何か歌い始めた。
俺の前へ来た一人の芸者が「あんたなんぞ歌いなはれ」と三味線を抱えたから「俺は歌わない、貴様歌ってみろ」と言ったら
「金や太鼓でねぇ、迷子の迷子の三太郎とどんどこ、どんのちゃんちきりん。
叩いて回って逢われるものならば、私なんぞも金や太鼓でどんどこ、どんのちゃんちきりんと、叩いて回って逢いたい人がある」
と二息に歌って、「おお、しんど」と言った。
おお、しんどならもっと楽なものをやればいいのに。
はい。
えっと、芸者の女性が坊っちゃんの前に来て「歌って歌って」って、ま、三味線は昔の日本の楽器です。
ね、三味線を抱えてきたから、坊っちゃんは「貴様が歌ってみろ」と、はい、言いました。
それで、ま、この歌を二息に、だからまぁ息継ぎを一回しかしなかったってことですね。
一息にと言ったら、息継ぎを「ふぅー」て息を吸わずに、一息で歌うんですけど、
二息と言ってるので、ま、途中で一回だけ息を吸って、はい、歌ったんでしょうね。
で、「おお、しんど」しんどい、これはしんどいということですね。
しんどいは、あ〜きつい、はぁ、きつい、疲れたっていう意味です。
しんどいんだったらそんな長い歌じゃなくて、もっと楽なのをやればいいのに。
すると、いつの間にかそばへ来て座った野田が
「鈴ちゃん逢いたい人に逢ったと思ったらすぐお帰りで、お気の毒様見たようでげす」と、相変わらず噺家みたような言葉遣いをする。
鈴ちゃん、誰でしょう。
逢いたい人に逢ったと思ったらすぐ帰った。
お気の毒。かわいそう。
噺家というのは、なんだろう...昔の芸人ですね。
はい。そんな言葉遣いをしています。
「知りまへん」と芸者はつんとすました。
知りません。
野田は頓着なく「たまたま逢いは逢いながら...」と嫌な声を出して義太夫の真似をやる。
うーん...頓着なく、これはまぁ、無頓着ということでしょうね。無頓着というのは、あんまりこう...気にしない。
何かに関してこう、細かく気にしない、気にかけない、人のことも気にかけない。
はい、そういう様子を無頓着と言います。
義太夫。
義太夫というのは、日本の伝統芸能の一つの浄瑠璃の、なんか、一つなんだそうです。
はい、その真似をしたんだそうです、野田が。
「起きなはれや」と芸者は平手で野田の膝を叩いたら、野田は恐悦して笑ってる。
恐悦、ま、この字からすると喜んでるんですね。
はい。喜んで笑ってます。
この芸者は赤シャツに挨拶をしたやつだ。
芸者に叩かれて笑うなんて野田もおめでたいものだ。
普通、おめでたい、おめでとうっていう時の本当の意味のおめでたいというのは、ま、おめでたいですよね。何かこう祝福する時。
だけど「おめでたいやつだな」とか言う時のおめでたいっていうのは、このおめでとうの意味とはちょっと違って、なんかちょっとバカにしてますね。
こう...あまり深く物事を考えてない、楽観的な人とか、なんだろう...物事のその深刻さが分かってないみたいな意味でも、おめでたいというのを使います。
ここではそういう意味で「おめでたいやつだ」芸者にこう叩かれてね、芸者にね、パチンって叩かれてケラケラ笑ってる。
はい。その野田のことをおめでたいやつだと言ってます。
鈴ちゃん、僕が紀伊の国を踊るから、ま、踊りの種類でしょうね、紀伊の国。
一つ弾いてちょうだいと言い出した。
野田はこの上まだ踊る気でいる。
向こうの方で漢学のおじいさんが、先生ですね、漢学の先生が、歯のない口を歪めて
「そりゃ、聞こえません伝兵衛さん、お前とわたしのその中は...」とまでは無事に済ましたが、「それから?」と芸者に聞いている。
じいさんなんて物覚えの悪いものだ。
あちらこちらで芸者さんと男性の先生が、酔っ払った先生がやり取りをしてますね。
ま、一緒に歌を歌ったり歌わせたりしてるんでしょうね。
一人が博物をつらまえて、捕まえてですね。
「近頃こないなのがでけましたぜ。弾いてみまほうか。」これはちょっと芸者さんの独特な喋り方ですね。
こないなの、ちょっと関西弁なのかな。
こないなのは、こんなもの。
...が、でけましたぜ。できましたよ。
弾いてみまほうか。
弾いてみましょうか。
「よう聞いていなはれや」よく聞いててくださいね。
「花月巻、白いリボンのハイカラ頭、乗るは自転車、弾くはヴァイオリン、半可の英語でぺらぺらと、
Iamgladtoseeyou」と歌うと、博物は「なるほど面白い。英語入りだね」と感心している。
はい、これ、全部この歌の歌詞ですね。
で、英語が入ってる。
歌詞に英語が入ってるのは、この当時では珍しいことですから、ま、感心しているんだそうです。
宴会が続いていますね。
山嵐はバカに大きな声を出して、「芸者芸者」と呼んで、「俺が剣舞をやるから三味線を弾け」と号令を下した。
芸者はあまり乱暴な声なので、山嵐の声がね、乱暴なので、呆気に取られて、もうびっくりして、返事もしない。
山嵐は委細構わず、遠慮なくステッキを持ってきて、「踏破千山万岳烟」と真ん中へ出て一人で隠し芸を演じている。
これは...これもちょっと何のことだか分からなくて調べたところ、漢詩、昔の中国の詩ですね、に出てくる言葉なんだそうです。
はい。
山嵐まで、酔っ払ってるんでしょうか?楽しんでいますね。
ところへ、そこへ、野田が既に紀伊の国を済まして、かっぽれを済まして、ま、これも踊りですね。全部踊りです。
棚の達磨さんを済まして、丸裸の越中褌一つになって棕梠箒を小脇にかいこんで、抱い込んで、抱え込んでですね。
日清談判破裂して...と座敷中、練り歩き出した。
まるで気違いだ。
えーと、ま、いろいろ歌ったり踊ったりして、その後に丸裸の越中褌...ふんどし一枚になって、箒を抱えて、これもね、なんか歌の一節です。
こう歌いながら座敷中を練り歩きました。
はい、まるで気違いだ。
「気違い」これ何回も出てきて何回か多分前にも言ったんですけど、えっと、ま、気が狂っている頭がおかしい人っていう意味ですね。
で、昔は結構普通に気違いという言葉が使われてたんですけど、今の時代はこれは差別用語で使わない方がいい言葉ですので、はい、お伝えしておきます。
はい。
ようやく終わりが見えてきました。
俺はさっきから苦しそうに袴も脱がず控えているうらなり君が気の毒でたまらなかったが、
なんぼ自分の送別会だって、越中褌の裸踊りまで羽織り袴で我慢して見ている必要はあるまいと思ったから、
そばへ行って「古賀さん、もう帰りましょう」と退去を勧めてみた。
するとうらなり君は、「今日は私の送別会だから私が先へ帰っては失礼です。どうぞご遠慮なく。」と動く景色もない。
うん、坊っちゃんはね、うらなり先生が気の毒で、もう帰ろうって言ったんですけど、うらなり君はね、自分が主役だから先に帰るわけにはいかない。
ご遠慮なく。
ね、気にしないでくださいと言って、動く景色もない。
うん、あんまりこういう言い方しないですけど、まぁ、言い換えるなら「動く気配もない」ですかね。「動く様子もない」ですね。
何、構うもんですか。
送別会なら送別会らしくするがいいです。
あの様をご覧なさい。
気違い会です。
ね、あの、うらなり先生は真面目なので、そして礼儀正しいので
「いや私が先に帰るのは失礼ですから」って言ってるけど、坊っちゃんは「いやそんなの構わないよ」って。
そんなの気にする必要ない。
送別会なのにこんなことをしているあっちが悪いんだというような感じで、言ってますね。
さあ行きましょうと、進まないのを無理に進めて座敷を出かかるところへ、
野田が箒をふりふり進行してきて「や、ご主人が先へ帰るとはひどい」ご主人はうらなり先生のことですね、主役です。
日清談判だ。
帰せない、と箒を横にして行く手を塞いだ。
はい。
野田がね、帰らせないように塞ぎます。道を塞ぎます。
俺はさっきから癇癪が起こっているところだから、癇癪を起こすというのは、怒ってる。
「日清談判なら貴様はちゃんちゃんだろう」と、いきなりゲンコツで野田の頭をポカリとくわしてやった。
ま、このね、この日清の清というのは、中国のことです。今の中国のことです。
昔は清という名前だったんですね。
日本と中国の間の話し合いのことを題材にした歌なんでしょうね。
で、野田がね、「日清談判だ」ってこう訳の分からないことを言ってるので、日清?日清談判?それなら貴様は、野田は、ちゃんちゃん。
これはね、中国人のことを差別する言葉なんだそうです。私、初めて聞きました。
あの、今使われないですし、差別用語なので、もちろん使っちゃいけないですけど、中国人を差別して使う言葉なんだそうです。
はい。
で、ゲンコツで頭を叩きました。
野田は二、三秒の間、毒気、ね、毒を抜かれた体でぼんやりしていたが、「おや、これはひどい」「おぶちになったのは情ない」ま、ぶつは、殴ることですね。
この吉川をご打擲とは恐れ入った。
ご打擲。打擲は殴ることだそうです。
初めて聞いた言葉です。
はい。
「いよいよもって日清談判だ」と分からぬことを並べているところへ、
後ろから山嵐が何か騒動が始まったと見て取って剣舞をやめて飛んできたが、この体たらくを見て、いきなり首筋をうんと掴んで引き戻した。
体たらくは、その有様、その様子ですね、を見て、いきなり首筋をうんと掴んで引き戻した。
坊っちゃんを引き戻したんですかね。
「日清...痛い痛い...どうもこれは乱暴だ」と振りもがくところを横に捻ったらすとんと倒れた。
あ、だからこれは坊っちゃんじゃなくて野田ですね。
野田を掴んだんですね。
あとはどうなったか知らない。
途中でうらなり君に別れて家へ帰ったら11時過ぎだった。
長かったですね。
お疲れ様でした。
今回はうらなり君の送別会で起こったお話でした。
もう残り10章11章、二つしかないですから、どんな結末になるか楽しみですね。
はい、じゃあ続きはまた次回読みたいと思います。
今日はここまでです。